この記事の要点
整備工場で書く文書は、記録・案内・説明の3つに分かれます。点検整備記録簿や特定整備記録簿のように法令で記載が決まっているものは人が書きます。一方で、車検の案内文、見積の内訳の説明、OBD検査とは何かをお客さまに伝える文章は、生成AIに下書きさせて人が直すほうが早く仕上がります。静岡県は自動車保有台数が全国10位(令和7年3月末)で、車検と点検の件数がそのまま書く仕事の量になります。区分を先に決めてから使い始めてください。
- 記録簿・適合証まわりは生成AIに書かせない
- 案内文と説明文は下書きを任せて人が直す
- 制度の事実は国土交通省のページから取る
- 車台番号・ナンバー・お客さまの氏名は入力しない
整備工場で書く文書は、記録・案内・説明の3つに分かれる
「書類が多い」とひとまとめにすると、どこから手を付けるか決まりません。先に3つに分けます。

記録(法令で様式と記載が決まっているもの)
点検整備記録簿、特定整備記録簿、保安基準適合証まわりの書類です。自動車特定整備事業の制度では、特定整備を行った際に、行った作業について特定整備記録簿に記載する義務があると定められています。ここは書く内容が事実そのもので、言い回しを整える余地がありません。生成AIの出番はありません。
案内(お客さまに送るもの)
車検の時期のお知らせ、法定12か月点検の案内、入庫日の連絡、代車の案内、リコール対象になったときの連絡。同じ内容を宛先ごとに書き分ける仕事です。文面の型が決まっていて、事実だけ差し替える。ここは下書きを任せやすい部分です。
説明(作業内容を言葉にするもの)
見積書に並んだ部品名と工賃を、お客さまに分かる言葉で説明する。整備士が書いた作業メモを、引き渡し時の説明文にする。断られた作業について、次回までに何が起きうるかを伝える。専門用語を日常の言葉に置き換える作業で、生成AIが最も役に立つところです。
この3つのうち、記録は人、案内と説明は下書きを任せる。まずこの一本の線を引きます。
生成AIに下書きさせてよい文書
任せてよい範囲を、具体的な形で決めておきます。

車検・点検の案内文
車検の満了日が近いお客さまへの案内は、毎月同じ作業が発生します。文面の型を1つ作り、そこに事実を差し込む形にすると安定します。
次の内容で、車検の案内はがきの文面を作ってください。 渡した項目以外の情報を足さないでください。 料金や作業内容の約束にあたる表現は書かないでください。 ・当社は認証を受けた整備工場であること ・満了日の1か月前から車検を受けられること ・代車の用意があること ・見積は無料で、作業前に必ず説明すること ・連絡先の電話番号は差し込み欄にすること
「渡した項目以外の情報を足さない」と「料金や作業内容の約束にあたる表現は書かない」の2つを必ず入れます。これがないと、生成AIは案内文らしく整えるために「最短60分で完了」「どんな車種にも対応」といった、こちらが言っていない約束を書き足します。
見積の内訳を説明する文
見積書そのものは基幹システムから出ます。困るのは、その内訳を電話や店頭で説明する場面です。部品名と作業名の一覧を渡して、「なぜその作業が必要か」を短い文にしてもらう。ここは下書きとして使えます。
ただし金額と作業の要否は、整備士が決めた内容をそのまま渡します。生成AIに「必要そうな作業」を考えさせてはいけません。
作業内容をお客さま向けに言い換える
引き渡し時の説明メモが一番効きます。整備士が書いた短いメモ(「ブレーキパッド残3mm、次回交換推奨」)を、お客さまが読んで分かる文に直す。専門用語をそのまま渡し、言い換えだけを頼む形にします。
外国人のお客さまが多い地域では、やさしい日本語や多言語への言い換えも同じ考え方で進められます。書き方の型は外国人スタッフへの説明文書を生成AIでやさしい日本語ににまとめています。
生成AIに書かせてはいけない文書
線の反対側も、具体名で決めておきます。

点検整備記録簿と特定整備記録簿
記録簿は、実際に行った点検と整備の事実を記載する書類です。生成AIに下書きさせると、行っていない点検項目が埋まった状態の文が出ます。あとから消す手間が増えるだけでなく、消し忘れると事実と違う記録になります。
自動車特定整備事業についてのページには、特定整備記録簿の書き方の例が置かれています。迷ったときは生成AIではなく、この例を見てください。
保安基準適合証まわりの判断
適合するかどうかの判断は、資格と認証にひもづいた仕事です。生成AIは「基準を満たしていそうな文章」を作れてしまうため、判断の材料として使うと危険です。制度の条文や通達はOBD検査を実施するにあたって(整備事業者向け)や、運輸支局の案内から直接確認します。
リコールと不具合の連絡
リコールの対象範囲、対象車台番号、無償修理の内容は、メーカーの届出内容がすべてです。生成AIに要約させると、対象車種の範囲が広がったり狭まったりします。対象かどうかは自動車不具合情報ホットラインのリコール情報検索で確かめ、お客さまへの連絡文には届出の記載をそのまま写します。生成AIに任せてよいのは、そこに添える「ご来店の日程調整のお願い」の部分だけです。
OBD検査をお客さまに説明する文をつくる
車検の受付で「OBD検査って何ですか」と聞かれる場面が増えています。ここは制度の事実と説明文を分けて考えます。

制度の事実は国土交通省のページから取る
自動車の電子的な検査(OBD検査)についてには、OBD検査は令和3年10月1日(輸入車は令和4年10月1日)以降の新型車を対象として、令和6年10月1日(輸入車は令和7年10月1日)以降の車検において実施される、と書かれています。導入の背景として、自動ブレーキ等の先進安全技術が正しく作動するためには定期的な検査が必要であること、令和元年の道路運送車両法改正等により関係法令が整備されたことも記載されています。
この4つの日付は、生成AIに聞かずに公式ページから写してください。年月の組み合わせが多く、生成AIが最も取り違えやすい形をしています。
説明文の下書きに渡す情報
事実を写したうえで、説明文の下書きだけを頼みます。
次の事実だけを使って、車検受付でお客さまに渡すA5一枚の説明文を作ってください。 日付・年号・対象範囲は一字も変えないでください。 渡していない事実を足さないでください。 ・OBD検査は令和6年10月1日以降の車検で実施される(輸入車は令和7年10月1日以降) ・対象は令和3年10月1日以降の新型車(輸入車は令和4年10月1日以降) ・対象かどうかは車検証の記載で確認できる ・検査は当社の検査機器で実施し、追加のお預かり時間は発生しない場合が多い ・不明点は受付にお尋ねいただきたい
出来上がった文は、日付だけを指でなぞって国土交通省のページと照合します。整備事業者向けの手順やアプリのマニュアルは、自動車技術総合機構が提供するOBD検査ポータルで公開されています。
特定整備の認証と社内教育の資料づくり
制度の説明を社内で共有する場面でも、下書きは任せられます。
特定整備で対象が広がった範囲
自動車整備制度は、エンジンやブレーキなどを取り外して行う「分解整備」から、取り外しを伴わなくとも装置の作動に影響を及ぼす整備または改造等(電子制御装置整備)へ範囲を拡大し、自動運転レベル3以上の自動車に搭載される「自動運行装置」を対象装置に追加して、名称を「特定整備」に改めたものです。令和2年4月から始まっています。事業場(電子制御装置点検整備作業場)、従業員、工具(整備用スキャンツール等)の要件が定められています。
整備主任者の講習と社内資料の下書き
電子制御装置整備の整備主任者に選任されるためには、各地方運輸支局長が行う「電子制御装置整備の整備主任者等資格取得講習」を修了する必要があります。一級小型自動車整備士の有資格者は受講が免除されます。受講申請の方法は最寄りの運輸支局に問い合わせます。県内の窓口は中部運輸局 静岡運輸支局です。
社内向けの資料は、この公式の記述をそのまま貼り、「新人整備士が読んで分かる言葉に直して。制度の内容は変えないで」と頼む形にします。整備主任者研修 法令研修 研修教材には令和8年度版が公開されているので、社内勉強会の下地はここから取れます。教材の作り方そのものは中小企業の生成AI研修の始め方を参照してください。
入力しない情報と、工場での運用ルール
整備工場は、個人情報と車両情報が同時に集まる場所です。入力しないものを紙に書いて工場に貼っておくのが確実です。
- お客さまの氏名、住所、電話番号、メールアドレス
- 車台番号、登録番号(ナンバー)、車検証の画像
- 免許証や保険証券の画像
- 従業員の資格番号、給与、評価
- 取引先や部品商との仕切価格
案内文の下書きを頼むときは、宛名を「お客さま」のままにして、差し込みは基幹システム側で行います。見積の説明を頼むときは、部品名と作業名だけを渡し、車両が特定できる情報は外します。
工場では、事務所のパソコンと現場のスマートフォンの両方から使われます。どの端末で、どのサービスを使ってよいかも合わせて決めておきます。ルールの決め方はAI推進担当が最初にやることにまとめてあります。
小さく始めて広げる順番を決める
一度に広げないほうが定着します。順番を決めます。

案内文と説明メモから手を付ける
はじめの1週間は、案内文を1種類だけ選びます。車検の案内はがきが手を付けやすい題材です。今使っている文面を渡して言い換えさせ、出てきた文を人が直す。この往復を3回やると、指示の書き方が分かります。
次の1週間で、引き渡し時の説明メモに広げます。整備士のメモを1日分だけ集めて、まとめて言い換えます。ここで「専門用語を残す語」と「言い換える語」の一覧が社内にできます。ブレーキパッド、ブーツ、ロアアーム。残す語を決めておくと、お客さまとの会話がずれません。
制度の説明文と運用ルールを固める
3週目に、OBD検査と特定整備の説明文を作ります。制度の事実は国土交通省のページから写し、説明文の形だけを下書きさせます。できた文は受付に置いて、実際に聞かれた質問を書き足していきます。
4週目に、入力しない情報の一覧を確定して、工場と事務所に貼ります。ここまでで、記録は人・案内と説明は下書きという線が形になります。整備士の採用と教育に手が回らない状態が続くなら、書く仕事を減らしてから採用を考える順番もあります。県内の採用環境は静岡の有効求人倍率1.10倍|地域と職種の差の読み方で扱っています。
まとめ
整備工場の文書は、記録・案内・説明の3つに分けて考えます。点検整備記録簿と特定整備記録簿、保安基準適合証まわりの判断、リコールの対象範囲は人が扱い、生成AIには書かせません。車検の案内文、見積の内訳の説明、引き渡し時の言い換えは、下書きを任せて人が直します。
OBD検査や特定整備の説明文をつくるときは、日付と対象範囲を国土交通省のページから写してから、文の形だけを下書きさせます。車台番号やナンバー、お客さまの氏名は入力しない。この線を先に決めておけば、静岡県内の工場で毎月発生する書く仕事を、安全に短くできます。部品を作る側の文書業務は静岡の自動車・二輪部品×生成AIにまとめています。
よくある質問
Q. 点検整備記録簿を生成AIに下書きさせてもよいですか。
やめてください。記録簿は実際に行った点検と整備の事実を書く書類です。生成AIに下書きさせると、行っていない項目が埋まった文が出てきます。消し忘れると事実と違う記録が残ります。書き方に迷う場合は、国土交通省の「自動車特定整備事業について」に置かれている特定整備記録簿の書き方の例を見てください。
Q. OBD検査はいつから始まりましたか。
国土交通省のページによると、OBD検査は令和3年10月1日(輸入車は令和4年10月1日)以降の新型車を対象として、令和6年10月1日(輸入車は令和7年10月1日)以降の車検において実施されています。日付の組み合わせが多いので、お客さま向けの説明に書くときは公式ページから写してください。
Q. 車検の案内はがきの文面を生成AIに作らせても問題ありませんか。
下書きとしては使えます。ただし「渡した項目以外の情報を足さない」「料金や作業内容の約束にあたる表現は書かない」の2つを指示に入れてください。これがないと、所要時間や対応車種について、こちらが言っていない約束が文面に入ります。
Q. お客さまの車検証を撮影して生成AIに読ませてもよいですか。
避けてください。車検証には車台番号、登録番号、所有者と使用者の氏名・住所が載っています。個人情報と車両情報がそろった資料です。案内文の下書きは宛名を「お客さま」のままにして、差し込みは基幹システム側で行ってください。
Q. リコールの連絡文を生成AIにまとめさせてもよいですか。
対象範囲と無償修理の内容は、届出の記載をそのまま写してください。生成AIに要約させると対象車種の範囲がずれます。対象かどうかは自動車不具合情報ホットラインのリコール情報検索で確認します。生成AIに任せてよいのは、来店の日程調整をお願いする部分だけです。
Q. 特定整備の認証について社内で説明したいのですが。
国土交通省の「自動車特定整備事業について」の記述をそのまま貼り、新人が読んで分かる言葉に直すよう頼む形が安全です。制度の内容は変えないよう指示してください。電子制御装置整備の整備主任者に選任されるには地方運輸支局長が行う講習の修了が必要で、一級小型自動車整備士は受講が免除されます。手続きは中部運輸局 静岡運輸支局に問い合わせてください。
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参考・出典
- 国土交通省「自動車の電子的な検査(OBD検査)について」(対象車と開始時期、導入の背景)
- 国土交通省「OBD検査を実施するにあたって(整備事業者向け)」
- 国土交通省「自動車特定整備事業について」(特定整備の範囲、整備主任者等資格取得講習、特定整備記録簿の書き方の例)
- 国土交通省「整備主任者研修 法令研修 研修教材」(令和8年度版)
- 国土交通省「自動車不具合情報ホットライン」(リコール情報検索・リコール届出情報一覧)
- 国土交通省 中部運輸局「静岡運輸支局」
- 静岡県統計センター「静岡県の100の指標」(自動車保有台数(軽自動車含む)全国10位・令和7年3月末)