SHIZUOKA AI JOURNAL

記事を読む 静岡のAI活用・補助金・研修設計を実務で使う
業務改善

外国人スタッフへの説明文書を生成AIでやさしい日本語に|静岡

⏱ 約12分で読めます
外国人スタッフへの説明文書を生成AIでやさしい日本語に|静岡

静岡県で働く外国人は88,968人、雇っている事業所は10,967所で、どちらも届出が義務化されて以降の過去最高です。国の指針は、労働条件も賃金の内訳も安全衛生教育も「母国語等」で理解できる方法で伝えるよう事業主に求めています。そしてこの「母国語等」には、平易な日本語が含まれます。生成AIは、その下書きを作る道具としては現実的です。ただし、確定させるのは人の仕事です。

静岡の職場に外国人スタッフは何人いるのか

静岡県で働く外国人の内訳
静岡県で働く外国人の内訳

静岡労働局が2026年1月30日に公表した静岡県の「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末現在)によると、県内の外国人労働者数は88,968人で、前年比7,408人(9.1%)の増加でした。13年連続の増加であり、11年連続で過去最高を更新しています。全国では7番目に多い県です。

外国人を雇用している事業所は10,967所で、前年比732所(7.2%)の増加。こちらは全国で9番目です。

実務で効いてくるのは、その内訳のほうです。

  • 事業所規模: 「30人未満事業所」が事業所全体の64.7%を占め、外国人労働者全体の35.9%がそこで働いています
  • 産業別: 外国人労働者数は「製造業」が最も多く全体の36.7%、事業所も「製造業」が最も多く26.8%
  • 伸びている業種: 労働者数の増加率が最も高いのは「医療、福祉」の29.4%増、次いで「宿泊業、飲食サービス業」の18.8%増。事業所の増加率では「建設業」の12.0%増、次いで「卸売業、小売業」の10.5%増
  • 国籍: ブラジル18,686人(21.0%)、ベトナム17,224人(19.4%)、フィリピン15,462人(17.4%)で、上位3か国の合計が全体の57.7%
  • 増加率が高い国籍: ミャンマー32.9%増、インドネシア29.2%増、ネパール28.5%増
  • 派遣・請負: 労働者派遣・請負事業を行っている事業所に就労している外国人は31,193人で、外国人労働者全体の35.1%。この割合は全国2位です

ここから読み取れる現実は2つです。ひとつは、専任の通訳や翻訳担当を置ける規模の会社が少ないこと。事業所の3分の2近くが30人未満です。もうひとつは、言語の顔ぶれが入れ替わりつつあること。ポルトガル語・ベトナム語・タガログ語の3本を用意すれば足りる、という前提はもう成り立ちません。増加率で見るとミャンマー・インドネシア・ネパールが3割前後で伸びています。

製造業が中心という点は、県内の輸送機器サプライヤーや食品工場を思い浮かべれば納得しやすいはずです。工程の書類をどう回すかは静岡の自動車・二輪部品×生成AI焼津・沼津の水産加工×生成AIでも扱っています。

国の指針が「母国語等」を求めている場面は思ったより多い

指針が「母国語等」での説明を求めている場面
指針が「母国語等」での説明を求めている場面

外国人を雇う事業主が従うべきルールは、外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針(平成19年8月3日 厚生労働省告示第276号)にまとまっています。直近の改正は令和8年5月29日(厚生労働省告示第227号)です。

この指針を読むと、「母国語等を用いる等、当該外国人労働者が理解できる方法により」という言い回しが繰り返し出てきます。該当する場面を並べると次のようになります。

  1. 労働条件の明示(募集時・契約時)。指針は「モデル労働条件通知書やモデル就業規則を活用する、母国語等を用いて説明する等、当該外国人労働者が理解できる方法により明示するよう努めること」と書いています
  2. 賃金に関する説明。賃金の決定・計算・支払方法だけでなく、「税金、雇用保険及び社会保険の保険料、労使協定に基づく賃金の一部控除の取扱いについても、母国語等を用いる等、外国人労働者が理解できるよう説明し」とあります
  3. 労働基準法等の周知。就業規則・労使協定について、「分かりやすい説明書や行政機関が作成している多言語対応の広報資料等を用いる、母国語等を用いて説明する等」
  4. 安全衛生教育の実施。ここだけ表現が強く、「母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、当該外国人労働者がその内容を理解できる方法により行うこと」と言い切りです。特に「使用させる機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱方法等が確実に理解されるよう留意すること」と続きます
  5. 労働災害防止に関する標識、掲示等。「図解等の方法を用いる等」と書かれています
  6. 健康診断の実施等。目的・内容を母国語等で説明し、結果と事後措置の必要性・内容も理解できる方法で説明するよう努める、とあります
  7. 労働・社会保険の制度の周知。雇入れ時に行政機関の多言語対応の広報資料等を活用する、母国語等を用いて説明する等
  8. 苦情・相談体制の整備。窓口の設置等

8項目ぜんぶを、入社のたびに人力で翻訳して用意している会社は多くないはずです。だからこそ、下書きを機械に作らせる価値があります。

「母国語等」には平易な日本語が含まれる

見落とされがちなのが、指針そのものが「母国語等」を定義していることです。原文はこうです。

母国語その他の当該外国人が使用する言語又は平易な日本語(以下「母国語等」という。)

つまり、必ずしも全部を翻訳しなくてよい。平易な日本語で伝わるなら、それも指針が想定する方法のひとつです。ここが実務上いちばん効きます。8言語ぶんの翻訳をそろえるのは無理でも、「やさしい日本語」の1本なら現実的に運用できます。

「やさしい日本語」の作り方は、出入国在留管理庁と文化庁が作った在留支援のためのやさしい日本語ガイドラインにまとまっています。書き言葉を中心としたガイドラインで、別冊の書き換え例と、話し言葉編もあります。

浜松市のやさしい日本語のページ(2026年4月24日更新)には、市内に約3万1千人の外国人市民が87の国・地域から居住していること、多言語対応には限界があるため「やさしい日本語」をコミュニケーション支援策として位置づけ、庁内向けの活用の手引きを作ったことが書かれています。87の国・地域というのは、翻訳だけで対応する発想を捨てるのに十分な数字です。

なお、やさしい日本語は「阪神淡路大震災での情報格差の経験から、言語学者が中心となって開発された」ものだと同ページは説明しています。もともと非常時の情報伝達のために作られた、という出自を知っておくと、安全衛生の掲示物に使うことへの納得感が違います。

生成AIに任せてよい範囲と、人が確定させる範囲

線引きをはっきりさせておきます。

任せてよいこと

  • すでにある日本語の原文を、やさしい日本語に書き換えた下書きを作る
  • そのやさしい日本語版から、各言語の下書きを作る
  • 社内の用語集(作業名・設備名・略語・社内固有の呼び方)を整理する
  • 掲示物・お知らせの文案を作る
  • 安全衛生教育で読み上げる原稿のたたき台を作る

任せないこと

  • 労働条件通知書や就業規則そのものの作成・確定
  • 法令や在留資格の解釈、その人が就ける業務かどうかの判断
  • 賃金額・控除額の計算
  • 翻訳の最終確定

そもそも入力しないこと

  • 氏名、生年月日、住所
  • 在留カード番号、在留資格と在留期間、パスポート番号
  • 個人の賃金額、口座情報、健康診断の結果

指針が求めているのは「事業主が明示する」「事業主が周知する」「事業主が説明する」ことです。責任の所在は最初から人にあります。AIの出力は素材であって、成果物ではありません。この考え方は経理・総務・人事の生成AI活用で書いた労務書類の扱い方と同じです。

1つの原文から2系統の下書きを作る

原文から2系統の下書きを作る流れ
原文から2系統の下書きを作る流れ

実務の手順に落とします。ポイントは、日本語からいきなり多言語へ訳さないことです。

第1段階|原文を1つに決める

社内に同じ内容の文書が複数バージョンあるなら、まず現行版を1つに確定させてください。ここが曖昧なまま翻訳を始めると、あとで全言語ぶんを作り直すことになります。

第2段階|社内の用語集を先に作る

「2番ライン」「上がり」「品証」のような社内語は、AIが勝手にもっともらしく訳します。用語集を先に作り、毎回プロンプトに添えてください。用語集そのものの草案づくりはAIに向いています。既存のマニュアルを読ませて、「社外の人に意味が伝わらない可能性が高い語」を抜き出させると早く進みます。

第3段階|やさしい日本語の下書きを作る

指示の例です。

次の社内文書を、日本語の学習途中の人にも読めるように書き換えてください。条件は、1つの文に1つの情報だけ入れる/二重否定を使わない/敬語は「です・ます」までにする/専門用語は添付の用語集の言い換えを使う/変更した箇所を一覧で示す、です。書き換えられない箇所があれば、勝手に削らず「要確認」と印を付けてください。

「変更箇所を一覧で示す」と「勝手に削らせない」の2つが効きます。要約されて情報が落ちる事故を防げます。

第4段階|やさしい日本語版から各言語へ訳す

原文ではなく、第3段階の成果物を訳します。文が短く曖昧さが少ないぶん、訳のブレが小さくなります。県内で多いのはポルトガル語・ベトナム語・タガログ語ですが、増加率で見るとミャンマー・インドネシア・ネパールも視野に入ります。

第5段階|逆翻訳で確認する

出来上がった各言語版を、別のセッションで日本語に訳し戻させます。原文と意味がずれた箇所が浮かびます。金額・日付・期限・禁止事項は必ずこの確認を通してください。

第6段階|現場の当事者に読んでもらう

最後は人です。「読めましたか」と聞くと、たいてい「はい」と返ってきます。どこで読むのが止まったかを聞くようにしてください。止まった箇所が、次に直すべき用語です。

第7段階|掲示・配布

掲示物は図解と併用します。指針も、労働災害防止に関する標識・掲示等について「図解等の方法を用いる等」と書いています。

静岡で特につまずく3点

1. 言語の顔ぶれが動く

上位3か国で57.7%を占める一方、増加率の上位はミャンマー・インドネシア・ネパールです。「去年そろえた3言語」を固定資産だと思わないほうがよい。だからこそ、やさしい日本語版を原本として持ち、各言語版は使い捨てにできる形にしておくのが合理的です。

2. 派遣・請負が35.1%

県内の外国人労働者の35.1%が、労働者派遣・請負事業を行っている事業所に就労しています。この割合は全国2位です。誰が説明義務を負うのか、実際に誰が説明するのかは、派遣元・派遣先・受入現場で食い違いが起きやすい部分です。文書を作る前に、誰が渡して誰が説明するかを決めてください。作っただけで渡っていない文書は、いちばん危ない状態です。

3. 30人未満の事業所が64.7%

専任担当を置けません。だから、その場かぎりの翻訳を毎回頼むのではなく、原本と用語集をテンプレート化して、更新のたびに差分だけを回す形にします。1回目に時間をかけて、2回目以降を軽くする設計です。

建設現場のように、安全書類と掲示物が多い業種はこの効果が大きく出ます。現場書類の整理は建設業の生成AI活用7選、接客まわりの多言語対応は静岡の旅館・ホテル向け生成AI活用も参考になります。

浜松市の制度も見ておく

浜松市には外国人材活躍宣言事業所認定制度(2026年6月18日更新)があります。市のページに書かれている主な認定要件は次の3つです。

  • 申請時点で1年以上浜松市に所在していること
  • 外国人を1名以上雇用し、安全な就労環境と能力発揮の機会を提供していること
  • 労働関係法令並びに出入国関係法令等に違反がないこと

認定されると、企業イメージの向上、市発注業務での優遇措置、専門家による助言、ビジネス資金での優遇、日本語学習支援補助金の上限引き上げといったメリットがあると説明されています。

ただし、これは文書の多言語化そのものに対する助成ではありません。社内の受け入れ体制を整える取り組みの一部として位置づけるのが正確です。認定事業所数や制度の開始年は市のページに明記がないため、この記事では触れていません。

制度全般の相談先を整理したい場合は静岡県のDX・AI支援窓口も見てください。

社内展開の順番

  1. 原本にする文書を5本選ぶ。安全衛生教育の資料、作業手順書、賃金の内訳の説明、就業規則の要点、緊急時の連絡手順。この5本は指針が明確に触れている領域です
  2. 用語集を作る。50語もあれば最初は足ります
  3. やさしい日本語版を作る。ここまでを1週間で回します
  4. 現場の当事者3人に読んでもらう。止まった箇所を記録します
  5. 多言語版はそのあと。原本が固まる前に翻訳を発注すると、二度手間になります

社内で誰がこの作業を持つのかを決めておかないと、始まりません。担当の置き方はAI推進担当が最初の90日でやること|静岡の中小企業、研修としての組み立て方は中小企業の生成AI研修の始め方にまとめてあります。

まとめ

静岡県の外国人労働者は88,968人、事業所は10,967所で、いずれも過去最高です。国の指針は、労働条件の明示から安全衛生教育、健康診断の説明まで、幅広い場面で「母国語等」による説明を求めています。そして指針の言う「母国語等」には平易な日本語が含まれます。

現実的な打ち手は、全部を翻訳することではありません。やさしい日本語版を原本として作り、必要な言語だけを下書きから起こし、人が確認して確定させる。生成AIが効くのは、この原本づくりと下書きの部分です。

自社の文書をどこから手をつけるか迷ったら、お問い合わせからご相談ください。このメディアの方針はこのサイトについてに書いています。

出典・参考

  1. 静岡労働局「静岡県の『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和7年10月末現在)」(令和8年1月30日発表・PDF)
  2. 静岡労働局「外国人雇用状況」(統計一覧・2026年9月6日閲覧)
  3. 厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」(令和8年1月30日発表)
  4. 厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年8月3日厚生労働省告示第276号/最終改正 令和8年5月29日同第227号・PDF)
  5. 出入国在留管理庁・文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」(2026年9月6日閲覧)
  6. 浜松市「やさしい日本語」(2026年4月24日更新)
  7. 浜松市「外国人材活躍宣言事業所認定制度」(2026年6月18日更新)

この記事で確認できていないこと(2026年9月6日時点)

  • 静岡県内で「やさしい日本語」を社内文書に採用している企業の数・割合。公表された統計を確認できていません。
  • 浜松市外国人材活躍宣言事業所認定制度の認定事業所数と制度開始年。市のページに明記がありません。
  • 静岡市の外国人市民数と多文化共生施策の最新の計画名。今回は浜松市の資料のみを確認しています。
  • 「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」の初版公開年月。ページ上で確認できたのは動画公開2020年11月13日と修正版2021年4月20日の記載のみです。

よくある質問

Q. 全部を翻訳しないと法令違反になりますか。

A. 指針は「母国語等を用いる等、当該外国人労働者が理解できる方法により」と書いており、その「母国語等」には平易な日本語が含まれると定義されています。翻訳が唯一の方法ではありません。ただし安全衛生教育については「母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、その内容を理解できる方法により行うこと」と言い切りの表現になっているので、伝わったかどうかの確認まで含めて設計してください。

Q. 生成AIの翻訳をそのまま掲示してよいですか。

A. 下書きとして扱ってください。特に金額・日付・期限・禁止事項は、逆翻訳と現場の当事者による確認を通してから掲示することをおすすめします。指針が求めているのは事業主が説明することであり、翻訳ツールの出力をもって説明したことにはなりません。

Q. 在留カードの内容をAIに読ませて確認してよいですか。

A. 在留カード番号・氏名・在留資格・在留期間は個人情報です。汎用の生成AIサービスに入力しないでください。在留資格の範囲内で就労できるかの判断は、労働局や出入国在留管理庁に確認する事項です。

Q. どの言語から用意すればよいですか。

A. 静岡県では国籍別でブラジル21.0%、ベトナム19.4%、フィリピン17.4%の順で、上位3か国が全体の57.7%です。ただし増加率ではミャンマー32.9%増、インドネシア29.2%増、ネパール28.5%増と入れ替わりが起きています。特定言語をそろえる前に、やさしい日本語版を原本として作っておくほうが持ちます。

Q. 派遣で受け入れている場合、説明するのは派遣元ですか。

A. 契約と実態によって変わります。静岡県は外国人労働者の35.1%が労働者派遣・請負事業を行っている事業所に就労しており、この割合は全国2位です。文書を作る前に、派遣元・派遣先のどちらが何を説明するかを書面で決めてください。判断に迷う場合は静岡労働局に確認するのが確実です。

Q. 用語集はどれくらいの規模から始めればよいですか。

A. 最初は50語程度で十分です。作業名・設備名・略語・社内固有の呼び方から拾ってください。既存のマニュアルを生成AIに読ませて「社外の人に意味が伝わらない可能性が高い語」を抜き出させると、たたき台が短時間で作れます。