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取扱説明書と修理案内を生成AIで|浜松の楽器産業

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取扱説明書と修理案内を生成AIで|浜松の楽器産業

浜松の楽器産業は、令和6年の販売金額合計666億5,701万1千円のうち414億3,259万4千円が輸出です。楽器は売ってからの付き合いが長く、取扱説明書・保証書・修理案内・部品の問い合わせが、機種と年式と言語の数だけ積み上がっていきます。生成AIが効くのは、この積み上がった文書を作り直す部分です。製品の安全に関わる記載と保証の条件は、人が決めます。

浜松の楽器づくりは、半分以上が海外へ出ていく

浜松の楽器産業の販売金額
浜松の楽器産業の販売金額

まず規模を確認します。浜松市産業部が毎年出している「浜松の産業 令和8年度版」には、楽器産業の販売金額が載っています(静岡県楽器製造協会調・調査対象7社・本市及び周辺地域のデータを含む)。

  • 令和5年: 輸出販売金額 430億1,479万1千円/内需販売金額 241億7,483万5千円/販売金額合計 671億8,962万6千円
  • 令和6年: 輸出販売金額 414億3,259万4千円/内需販売金額 252億2,441万7千円/販売金額合計 666億5,701万1千円

合計に占める輸出の割合は、令和6年でおよそ6割です(公表値からの計算)。前の年と比べると輸出が減って内需が増え、合計はわずかに減っています。国内が持ち直した年、と読むこともできますが、いずれにせよ海外向けが半分を超える産業であることは変わりません。

県全体で見ても同じ構図です。静岡県の「楽器の輸出額 日本一」によると、令和7年の全国の楽器の輸出額は755億1,682万円で、そのうち静岡県が410億5,378万円。全国に占める割合は54.4%で日本一です。2位は東京都で15.2%、3位は愛知県で11.7%。主な輸出先はアメリカ合衆国、中国、ドイツと書かれています。

ピアノに絞ると、さらに極端です。県の「ピアノの出荷量・出荷額 日本一」では、令和6年の静岡県のピアノ出荷量は2万9,656台、出荷額は212億2,200万円で、いずれも全国に占める割合が100%。同ページは、明治20年に山葉寅楠が小学校の米国製オルガンを修理したのが県内の楽器産業の発祥で、明治33年にピアノの国産化に成功したことも記しています。

このピアノの数字のもとになっているのは、総務省・経済産業省の2025年経済構造実態調査(製造業事業所調査)です。同調査の産業横断調査二次集計結果と製造業事業所調査結果は2026年7月29日に公表されています。県のページの時系列表は令和6年が最新なので、数字を引くときは表のいちばん新しい年次を採るようにしてください。前の年の行をそのまま使うと、2年古い値を最新値として書いてしまいます。

もうひとつ、産業構造の数字を添えておきます。同じ「浜松の産業」によると、令和3年の経済センサス活動調査(従業者4人以上の事業所)では、浜松市の製造業は1,783事業所・従業者66,522人。このうち「4人から29人」の規模が1,310事業所を占めます。大きな会社の周りに、小さな会社が数多く並ぶ構造です。文書の負担が実際に重くのしかかるのは、この小さな側です。

なお二輪車も同じ構図で、県の「二輪自動車・原動機付自転車の輸出量・輸出額 日本一」では令和7年の県の輸出量が23万3,217台(全国の29.0%)、輸出額が2,094億5,687万円(同37.3%)です。西部の製造業が海外市場と直につながっている、という前提は業種をまたいで共通します。部品側の文書業務は静岡の自動車・二輪部品×生成AIで扱いました。

楽器は売った後に文書が増える

売った後も続く文書の流れ
売った後も続く文書の流れ

自動車部品や医療機器と比べたときの、楽器の文書のいちばんの特徴は「終わらない」ことです。納品して検収が通れば一区切り、にはなりません。

製品に付いていく文書を、時間の流れで並べてみます。

  1. 引合と問い合わせ — 販売店・代理店・個人からの最初の接触
  2. 見積と仕様のすり合わせ — 仕様、納期、付属品、電源やインターフェースの条件
  3. 受注と出荷 — 出荷案内、同梱物リスト、開梱と設置の注意
  4. 取扱説明書と保証書 — 製品に同梱・同送する文書
  5. 設置と初期調整 — 設置環境、初期不良の切り分け、調律や調整の案内
  6. 修理と部品の供給 — 故障の受付、部品の適合確認、修理費の案内

4から6は、売った年ではなくその後ずっと発生します。しかも、その間に機種は増え、年式は積み重なり、仕向地の言語も増えます。文書の量は「機種 × 年式 × 言語」の掛け算で膨らんでいく。ここが、単発の受注で完結する加工業との決定的な違いです。

小さな会社ほど、この掛け算に人手が追いつきません。新機種を出すたびに取扱説明書を一から書き直し、翻訳を都度発注し、旧機種の修理案内はどこにあるか分からない。心当たりがあるなら、この記事の残りが役に立ちます。

取扱説明書を機種ごとに一から作らない

最初にやるのは、文書を分解することです。取扱説明書の中身を、次の3層に分けます。

  • 共通層: 安全上の注意、保管と手入れ、廃棄、問い合わせ先。機種が変わっても大きくは変わらない
  • 系列層: その製品系列に共通する操作、接続、設定の考え方
  • 機種層: 型番固有の仕様値、寸法、付属品、操作パネルの配置

新機種の説明書は、共通層と系列層を引き継ぎ、機種層だけを書けば済むはずです。ところが多くの現場では、前の機種のファイルをまるごとコピーして上書き編集しているため、共通層に入った古い記述が延々と生き残ります。連絡先が旧住所のまま、という事故はここから出ます。

生成AIが効くのは、この分解と棚卸しです。既存の説明書を数機種ぶん読ませて、次のように指示します。

添付の3つの取扱説明書を比較して、全てに共通して書かれている記述、一部にだけ書かれている記述、1つにしかない記述の3つに分類してください。分類の根拠として、それぞれどの文書のどの見出しにあったかを併記してください。文書に書かれていない内容を補わないでください。判断できない箇所は「要確認」と印を付けてください。

出てきた分類表が、共通層・系列層・機種層の下書きになります。ここまで来れば、次の新機種からは機種層だけを書けば済みます。

もうひとつ、先に作っておきたいのが用語集です。部品名、操作名、材質名、社内でしか通じない呼び方。これを固定しないと、説明書ごとに同じ部品が違う名前で書かれます。翻訳を始める前にやるべきなのは翻訳の発注ではなく、この用語集です。既存の説明書と部品表を読ませて「社外の人に意味が伝わらない可能性が高い語」を抜き出させると、たたき台が短時間で作れます。

保証書と保証条件は人が決める

ここは線を引いておきます。

生成AIに書かせてはいけないもの

  • 保証期間、保証の適用条件、免責の範囲
  • 安全上の警告文(けが・火災・感電につながる注意喚起)
  • 法令や規格で表示が求められている記載
  • 修理費の見積額、部品の適合可否の判断

下書きに使えるもの

  • 既存の保証規定を、読み手に分かる語順に整える案
  • よくある問い合わせへの一次回答の型
  • 保証の対象・対象外を並べた説明ページの構成案

そもそも入力しないもの

  • 顧客の氏名、住所、電話番号、メールアドレス
  • 購入履歴、シリアル番号と個人が結びつく情報
  • 販売店との取引条件、仕切価格

保証は約束です。約束の中身をAIに決めさせてはいけません。一方で、既に決まっている約束を分かりやすく書き直すのは、AIが得意な仕事です。この境目を社内で1枚の表にしておくと、担当者が代わっても運用が崩れません。線引き表の作り方は医療機器メーカーの生成AI活用7業務|静岡県東部でも扱っています。

修理と部品の問い合わせに、過去の答えを効かせる

修理の受付記録は、たいてい担当者の頭とメールの中にあります。これを資産に変えます。

やることは、記録の型をそろえるだけです。

  • 症状: 顧客が最初に言った言葉のまま
  • 確認したこと: 型番、年式、使用環境、いつから、再現するか
  • 原因: 実際に何が起きていたか
  • 処置: 交換した部品、調整した箇所
  • 使った部品: 品番と数量

過去のメールや受付メモを渡して、この5項目に整理させます。個人が特定できる情報は外してから渡してください。氏名・住所・電話番号を消し、型番と年式と症状だけを残せば、社内の知識としては十分に成立します。

型がそろうと、次にできることが増えます。新しい問い合わせが来たときに「症状」から近い過去の記録を探せる。一次回答の文面を、過去の処置に基づいて下書きできる。若手が同じ判断に近づける。

ここでも注意点は同じです。AIに原因を断定させないこと。一次回答は「同じ症状で過去に多かった原因は次の3つです。まず次の点を確認させてください」という形にして、最終的な原因の特定と修理費の提示は技術者が行います。

社内の知識をためる仕組みそのものについては中小企業の生成AI研修の始め方も参考になります。

製品に付く文書の英語版をどう出すか

先に範囲を切っておきます。この記事では、輸出手続きの書類は扱いません。インボイス、原産地証明、各国の規制対応や認証の書類は、行政や認証機関の手続きが絡む別の話です。食品側の輸出手続きは焼津・沼津の水産加工×生成AI、規制対応の英文の扱いは医療機器メーカーの生成AI活用7業務|静岡県東部にまとめてあります。

ここで扱うのは、製品に同梱・同送する文書の英語版・多言語版です。取扱説明書、保証書、設置ガイド、修理の案内。

翻訳の手順そのものは、社内向けの文書と考え方が同じです。日本語の原本を1つに固定し、用語集を先に作り、原本から各言語の下書きを起こし、逆翻訳で意味のずれを確認する。詳しくは外国人スタッフへの説明文書を生成AIでやさしい日本語に|静岡に書きました。対象読者は違いますが、原本を固めてから訳す、という順番は変わりません。

楽器で固有に効いてくるのは、版の管理です。

  • 日本語原本のどの版から訳したかを、各言語版の中に残す
  • 機種と年式ごとに、どの言語版が存在するかの一覧を持つ
  • 原本を直したとき、影響する言語版がどれかをすぐ引ける状態にする

この一覧を作る作業は、AIに任せられます。既存のファイル名と更新日の一覧を渡し、機種・年式・言語・版の4列に整理させる。抜けている組み合わせが見えたら、それが次に作るものです。

そして最後の確認は現地の販売店に頼んでください。「読めましたか」ではなく「この説明で、お客様に説明できますか」と聞くと、直すべき箇所が返ってきます。返ってきた指摘は、そのまま用語集に反映します。1回目に手間をかけて、2回目以降を軽くする設計です。多言語対応の考え方は静岡の茶業×生成AIでも別の業種の形で扱っています。

木工・塗装・調律の勘どころを言葉にする

楽器づくりには、数値で書ききれない判断が残ります。木の乾き具合、塗りの重ね方、音の詰まりの聞き分け。こうした判断は、手順書には「適宜」「様子を見て」としか書かれていないことが多い。

生成AIは、この聞き取りの補助として使えます。

熟練者に説明してもらった内容を文字にして渡し、次のように指示します。

次の説明文から、作業の手順、判断の分かれ目、判断に使っている手がかりの3つを抜き出してください。手がかりは「見る」「触る」「聞く」「嗅ぐ」のどれで判断しているかを併記してください。説明文に書かれていない内容を補わないでください。曖昧な表現はそのまま残し、末尾に「本人に確認が必要な箇所」として一覧にしてください。

大事なのは最後の1文です。数値や判定基準をAIに作らせない。「温度は20度前後」といった具体値をAIが補ってしまうと、それが手順書に載り、数年後には誰も出所を確認できなくなります。曖昧なまま残して本人に確認する、という運びを崩さないでください。

出てきた「本人に確認が必要な箇所」の一覧が、そのまま次の聞き取りの質問票になります。1回目は粗くて構いません。回を重ねるほど、手順書の空白が埋まっていきます。

文書の優先順位を決める2つの軸

文書の優先順位を決める2つの軸
文書の優先順位を決める2つの軸

全部を一度に作り直すことはできません。順番を決める目安として、2つの軸で並べてみてください。

  • 縦軸: 間違いの影響が大きいか、小さいか
  • 横軸: 作り直す頻度が高いか、低いか

この2軸で置くと、おおむね次のようになります。取扱説明書保証書は、間違いの影響が大きく、作り直す頻度は低い。だから人の確認を厚くし、版の管理を厳しくする領域です。一方で見積の返信修理の案内文は、1件あたりの影響は限定的で、作る回数が多い。ここは生成AIの下書きが最も効きます。

始める順番としては、右下(頻度が高く、影響が小さい)からです。見積の返信と修理の案内文でやり方に慣れてから、取扱説明書に手をつける。逆の順番でやると、最初のつまずきが最も重い文書で起きます。

浜松で相談できる先

業種の数字を自分で確かめたいときは、浜松市産業部の「浜松の産業」が使えます。年度版で更新され、工業の事業所数・従業者数・製造品出荷額等、楽器産業と繊維産業の販売金額、自動車の輸出・内需別生産状況などが1冊にまとまっています。県全体の位置づけは、静岡県の「Myしずおか日本一」の各ページで確認できます。

生成AIの導入そのものについて相談したい場合は、静岡県のDX・AI支援窓口で相談先を層ごとに整理しています。部品の調達側の文書業務は購買・調達の生成AIにまとめました。

まとめ

浜松の楽器産業は、令和6年の販売金額合計666億5,701万1千円のうち414億3,259万4千円が輸出で、県の楽器輸出額は全国の54.4%を占めます。ピアノに至っては出荷量・出荷額とも全国に占める割合が100%です。

この産業の文書の特徴は、売った後も終わらないことです。取扱説明書、保証書、設置ガイド、修理案内が、機種と年式と言語の掛け算で積み上がります。

生成AIが効くのは、既存文書の分解と棚卸し、用語集の作成、修理記録の型そろえ、一次回答の下書き、版の一覧づくりです。保証の条件、安全上の警告、法令で求められる記載、修理費の判断は人が決めます。始めるなら、作り直す頻度が高くて影響が小さい文書から。

自社の文書をどこから手をつけるか迷ったら、お問い合わせからご相談ください。このメディアの方針はこのサイトについてに書いています。

出典・参考

  1. 浜松市産業部「浜松の産業 令和8年度版」(PDF・2026年9月7日閲覧)
  2. 静岡県「楽器の輸出額 日本一」(Myしずおか日本一・更新日2026年3月31日)
  3. 静岡県「ピアノの出荷量・出荷額 日本一」(Myしずおか日本一・更新日2026年9月2日)
  4. 静岡県「二輪自動車・原動機付自転車の輸出量・輸出額 日本一」(Myしずおか日本一・更新日2026年3月31日)
  5. 経済産業省「経済構造実態調査」(2025年調査の製造業事業所調査結果は2026年7月29日公表・2026年9月7日閲覧)

この記事で確認できていないこと(2026年9月7日時点)

  • 浜松周辺の楽器関連の部品・加工・調律・修理を担う事業者の数。「浜松の産業」の産業分類別の表は中分類までで、楽器に限った事業所数は確認できていません。
  • 楽器が実際に何年使われるか(製品寿命)の公表値。本文では「長く使われる」という一般的な表現にとどめています。
  • 「浜松の産業 令和8年度版」の楽器産業の表のうち、令和6年の生産金額。輸出販売金額と同じ数値になっており切り分けられなかったため、本文では使っていません。
  • 楽器の輸出に関する関税・通関の直近の取扱い。県のページで確認できたのは輸出額と主な輸出先までです。
  • 静岡県楽器製造協会の調査対象7社の内訳と、調査の定義。「浜松の産業」に資料名として記載があるのみです。

よくある質問

Q. 取扱説明書の翻訳を、生成AIだけで完結させてよいですか。

A. 下書きまでにしてください。特に安全上の警告文と、法令や規格で表示が求められている記載は、訳のニュアンスがそのまま責任に直結します。日本語原本を固定し、用語集を添えて下書きを作り、逆翻訳で意味のずれを確認し、最後は現地の販売店や代理店に読んでもらう。この4段を通してから同梱してください。

Q. 顧客からの修理の問い合わせメールを、そのままAIに貼ってよいですか。

A. 氏名・住所・電話番号・メールアドレスを外してから渡してください。型番、年式、使用環境、症状だけを残せば、一次回答の下書きには十分です。社内で扱う修理記録も、個人が特定できる情報と技術情報を分けて保存しておくと、後から資産として使いやすくなります。

Q. 古い機種の説明書がPDFしか残っていません。どこから手をつけますか。

A. まず現行機種の説明書から共通層・系列層・機種層の分解をして、共通層を作ってください。旧機種はその共通層に合わせて、機種層だけを後から埋めていく形にします。全機種を同時に作り直そうとすると、途中で止まります。よく問い合わせが来る機種から順に埋めるのが現実的です。

Q. 保証書の文面をAIに書かせたら、それらしいものが出てきました。使えますか。

A. 使わないでください。保証期間・適用条件・免責の範囲は、会社が決める約束です。AIが出した「それらしい文面」は、他社の一般的な条件を混ぜたものになりがちで、自社が実際に提供できる保証と食い違います。既に決まっている保証条件を読みやすく整える用途に限ってください。

Q. 静岡県が楽器の輸出で日本一というのは、どの数字ですか。

A. 静岡県の「楽器の輸出額 日本一」によると、令和7年の全国の楽器の輸出額755億1,682万円のうち、静岡県が410億5,378万円で全国の54.4%を占めています。出典は名古屋税関の資料を参考にした県独自の推計と記されています。ピアノについては別ページで、令和6年の出荷量2万9,656台・出荷額212億2,200万円が全国に占める割合100%と公表されています。

Q. 技能の聞き取りをAIにやらせて、手順書を完成させられますか。

A. 完成はしません。AIにできるのは、熟練者が話した内容を手順・判断の分かれ目・判断の手がかりに整理することまでです。温度や時間などの具体値をAIに補わせると、出所の分からない数値が手順書に残ります。曖昧な箇所は曖昧なまま残し、「本人に確認が必要な箇所」として一覧にさせ、次の聞き取りで埋めてください。