この記事の要点
- 静岡県が2026年4月6日に公表した令和5年度の確報では、名目県内総生産が19兆1,182億円、一人当たり県民所得が382万2千円です。
- 「県民所得」は企業の所得なども含む県全体の指標で、個人の給与や手取りではありません。県自身が概要版でその注意を書いています。
- 事業計画書や補助金の申請書に静岡県の経済規模を書くときは、県内総生産(生産の大きさ)と県民所得(分配された所得)を混ぜないことが最初の関門です。
- 数字は毎年さかのぼって改訂されます。年度・確報か速報か・公表日の3点をセットで書けば、あとから直す手間が減ります。
- 生成AIは「どの数字を使うか」の判断には向きませんが、決めた数字を文章と表に整える作業は任せられます。
県民所得と県内総生産は、そもそも測っているものが違う
静岡県の経済の大きさを示す数字は複数あり、名前が似ているせいで資料の中で入れ替わってしまうことがよくあります。まず、何を測った数字なのかを分けておきます。

県内総生産は「静岡県の中でどれだけ生み出したか」
県内総生産は、静岡県という地域の中で1年間に新しく生み出された価値の合計です。工場が県内にあれば、その工場が生んだ価値は静岡県の県内総生産に入ります。会社の本社がどこにあるかは関係しません。国のGDPの県版だと考えると近いです。
県民所得は「静岡県の家計・企業・行政に分配された所得」
県民所得は、生み出された価値が誰に分配されたかの側から見た数字です。働く人に渡った分(県民雇用者報酬)、利子や配当(財産所得)、企業に残った分(企業所得)を足したものです。静岡県に住む人・ある企業が受け取った所得なので、県外の工場から静岡の企業が受け取る所得も含まれます。
「一人当たり県民所得」は給与の平均ではない
いちばん誤用が多いのがここです。一人当たり県民所得は、県民所得を県の人口で割っただけの数字で、分子には企業所得が入っています。県の概要版にも「『県民所得』という用語は、企業の所得なども含んだ県民経済全体の水準を表す指標で、個人の給与や実収入を表すものではありません」と明記されています(静岡県企画部統計活用課「令和5年度静岡県の県民経済計算(概要版)」(2026年4月6日))。求人票や賃金交渉の資料に「静岡の平均年収は382万円」と書くと、根拠のない数字になります。
令和5年度の静岡県の数字(早見表)
2026年4月6日に公表された令和5年度確報の主な値です(静岡県統計センターしずおか「令和5年度 静岡県の県民経済計算(確報)」(2026年4月6日))。

主要指標の一覧
| 項目 | 令和5年度の値 | 前年度比 |
|---|---|---|
| 県内総生産(名目) | 19兆1,182億円 | +5.3% |
| 県内総生産(実質・連鎖) | 18兆3,896億円 | +2.0% |
| 県民所得(要素費用表示) | 13兆5,870億円 | +8.9% |
| 一人当たり県民所得 | 382万2千円 | +9.7% |
| 民間最終消費支出 | 8兆5,892億円 | - |
| 一人当たり民間最終消費支出 | 241万6千円 | - |
国と比べるとどうか
国の同じ年度の値は、名目経済成長率が+4.7%、実質が-0.0%、一人当たり国民所得が355万円です。静岡県の一人当たり県民所得は国を27万2千円、率にして7.7%上回りました。名目・実質ともに3年連続のプラス成長です。
伸びをつくったのは企業所得
県民所得の内訳は、県民雇用者報酬が8兆1,200億円(+2.2%)、財産所得が7,038億円(-3%)、企業所得が4兆7,632億円(+25.1%)です。一人当たり県民所得が+9.7%と大きく伸びた主因は、企業所得の+25.1%です。「県民の給料が1割近く上がった」わけではない、という読み方がここから出てきます。
この数字を動かしているのは静岡の製造業
県内総生産の内訳を見ると、静岡県の数字がどの産業で決まっているかがはっきりします。

製造業が約4割、その中でも輸送用機械
令和5年度の製造業は7兆3,970億円で、県内総生産の38.7%を占めます。前年度比は+7.3%で、名目経済成長率+5.3%に対する寄与度は+2.8%と、全産業の中で最大でした。製造業の中では輸送用機械が2兆425億円(+12.4%)で最も大きく、化学が8,853億円(+13.7%)、電気機械が9,037億円(+9.1%)と続きます。浜松を中心とした自動車・二輪の集積と、県東部・中部の化学が、県全体の成長率をそのまま押し上げている構図です。
産業ごとに向きが違う年だった
同じ製造業でも、パルプ・紙・紙加工品は名目で2,250億円(+25.9%)と伸びた一方、実質では-8.2%と減っています。名目が伸びて実質が減るのは、価格が上がったぶんで金額が膨らんだという意味です。富士の製紙業のように価格転嫁が進んだ業種を「好調」とだけ書くと実態と合いません。窯業・土石製品は名目-36.3%、印刷業は名目-7.7%で、県内でも向きは分かれています。自社の業種の数字を引くときは、名目と実質の両方を見てから書いてください。県全体の出荷額の見方は静岡県の製造品出荷額の早見表で整理しています。
資料に書くときの型を先に決める
数字の取り違えは、書く直前ではなく、書く型を決めていない段階で起きます。県民経済計算を使う文章は、次の3つの型のどれかに収まります。

型1:県の規模を示す(事業計画・補助金申請の冒頭)
「静岡県の名目県内総生産は19兆1,182億円(令和5年度確報)で、うち製造業が38.7%を占める」のように、規模と構成比を並べます。ここでは県民所得を使いません。市場の大きさを説明する文脈だからです。
型2:所得水準に触れる(価格改定・地域手当の説明)
「一人当たり県民所得は382万2千円(令和5年度)で、国の一人当たり国民所得355万円を7.7%上回る」と書き、直後に「個人の給与水準を示すものではない」と一文添えます。この一文があるかどうかで、読み手が誤解したときの責任の所在が変わります。
型3:景気の向きを語る(社内の期初資料・経営会議)
県内総生産は年1回・確報は約2年遅れで出るため、直近の景気を語る材料には向きません。四半期別GDP速報や静岡県景気動向指数の読み方、採用の肌感なら静岡の有効求人倍率と組み合わせます。県民経済計算は「構造の説明」、月次・四半期の統計は「足元の説明」と役割を分けてください。
生成AIに任せられるところ、任せられないところ
この種の作業で生成AIが効くのは、数字を探す場面ではなく、決めた数字を形にする場面です。

任せてよい作業
出典付きで数字を渡したうえでの、表の組み立て、社内向けの言い換え、同じ内容の3行要約と200字版の作り分け、英語の会社案内への翻訳。「一人当たり県民所得は個人の給与ではない」という注意書きを、毎回同じ文言で差し込ませるのも向いています。定型の注意書きほど、人間が省略しがちだからです。
任せてはいけない作業
「静岡県の県民所得を教えて」と聞いて出てきた数字をそのまま使うこと。県民経済計算は基礎データの改訂や推計方法の改善で過去にさかのぼって改訂されるため、学習時点の値や別年度の値が混ざります。実際、令和3年度の一人当たり県民所得は今回の確報では332万1千円、令和4年度は348万4千円として掲載されており、過去に公表された値と一致するとは限りません。県のページで数字を取り、AIには渡すだけにしてください。
渡し方のひな形
社内で使うなら、次の形でプロンプトに貼ると事故が減ります。「以下は静岡県の公式統計から転記した確定値です。この値以外の数字を文中に追加しないでください。出典表記は各段落の末尾に残してください」と前置きし、値・年度・公表日・出典URLを並べて渡します。AI側に検索させないことが、この作業では品質を上げます。
数字を引く前の3点確認
最後に、県民経済計算を引くときの確認手順です。この3つを外すと、あとで資料を作り直すことになります。

年度・版・公表日をセットで書く
- 年度を確認する。 最新の確報は令和5年度(2023年4月1日〜2024年3月31日)です。2026年の資料に載っていても、対象は2023年度です。「2026年の静岡県のGDP」とは書けません。
- 確報か速報かを確認する。 県民経済計算の確報は毎年3月ごろの公表です。四半期別GDP速報は別の統計で、値も推計方法も違います(静岡県統計センターしずおか「静岡県の四半期別GDP速報」)。
- 公表日を書く。 「令和5年度・2026年4月6日公表」まで書いておけば、改訂後に読んだ人がどの版かを判断できます。
他県や国と比べたいとき
国全体の値や他県との比較が必要なときは、内閣府の国民経済計算と県民経済計算のページを起点にします(内閣府経済社会総合研究所「県民経済計算」)。県のデータ本体はe-Stat「県民経済計算」からも取得できます。
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よくある質問
Q. 一人当たり県民所得382万2千円は、静岡県の平均年収ですか。
A. 違います。県民所得には企業所得や財産所得が含まれ、それを県の人口(働いていない人も含む)で割っています。静岡県の概要版でも、個人の給与や実収入を表すものではないと明記されています。
Q. なぜ一人当たり県民所得が+9.7%も伸びたのですか。
A. 内訳のうち企業所得が+25.1%と大きく伸びたためです。県民雇用者報酬は+2.2%です。伸び率だけを引用すると、賃金が1割近く上がったように読まれてしまうので、内訳まで書いてください。
Q. もっと新しい数字はありませんか。
A. 県民経済計算の確報は年1回で、令和5年度分が2026年4月6日公表の最新です。足元の動きを見たい場合は、四半期別GDP速報や景気動向指数など、公表頻度の高い統計と組み合わせてください。
Q. 市町別の数字は取れますか。
A. 県は「しずおかけんの地域経済計算」という別の統計を公表しています。県民経済計算とは推計の単位が違うため、市町の値を県の値と同じ表に並べるときは、統計名を分けて書いてください。
Q. 過去に公表された値と今回の値が違うのですが、どちらが正しいですか。
A. 今回の確報の値です。県民経済計算は基礎データの遡及改訂や推計方法の改善により過去にさかのぼって改訂されるため、県は「過去のデータにつきましても本書の推計値を御利用ください」としています。
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