この記事の要点
議事録づくりは、録音、文字起こし、整理、確認、配布の5工程に分けられます。生成AIが効くのは「整理」で、文字起こしを渡して決定事項と宿題に分けさせる部分です。ただし、会議の種類によって作り方を変える必要があります。安全衛生委員会は労働安全衛生規則で毎月1回以上の開催と議事概要の周知、記録の3年間保存が求められ、取締役会の議事録は会社法で10年間の本店備置が必要です。こうした会議では、AIが作るのは下書きまでで、内容の確定と署名は人がやります。社内の打ち合わせであれば、もっと軽く回して構いません。
議事録が必要な会議と、そうでない会議
まず、社内の会議を3つに分けます。この分類をしないまま「全部の議事録をAIに」と考えると、法令で記録が要る会議まで雑な扱いになります。

法令で記録が求められる会議
代表が安全衛生委員会です。労働安全衛生規則第23条は、事業者に対して委員会を毎月1回以上開催するよう求めています。さらに同条第3項で、開催のつど遅滞なく議事の概要を労働者に周知させること、第4項で、委員会の意見とそれを踏まえて講じた措置の内容、その他の重要な議事を記録し3年間保存することを定めています。
周知の方法も条文に書かれていて、作業場の見やすい場所への掲示や備え付け、書面の交付、社内のファイルに記録して各作業場で常時確認できる機器を置くこと、のいずれかです。製造業の事業所が多い静岡県では、この委員会を持っている会社が少なくありません。
取締役会も同じ性質の会議です。会社法第369条第3項は、取締役会の議事について議事録を作成し、書面で作成されているときは出席した取締役と監査役が署名または記名押印しなければならないと定めています。第371条第1項は、取締役会の日から10年間、議事録等を本店に備え置くことを求めています。
社内で決めて残している会議
部門会議、月次の営業会議、プロジェクトの定例。法令上の義務はありませんが、決めたことを残さないと後で揉めます。ここがいちばん件数が多く、生成AIの効き目も大きい範囲です。
記録を残さなくてよい会議
雑談に近い打ち合わせ、1対1の相談。ここに議事録を作り始めると、作業だけが増えます。「決定事項が出たときだけメモを残す」で足ります。
分類を決めたら、会議名の一覧に「法令」「社内」「不要」の印を付けて、総務のフォルダに置いておいてください。新しく会議が増えたときに迷わなくなります。
録音から配布までの5工程
工程を分けると、どこを機械に任せられるかが見えます。

録音する
スマートフォンの録音アプリでも、オンライン会議の録画機能でも構いません。大事なのは、会議の冒頭で「記録のために録音します」と伝えることです。黙って録ると、後から内容よりも録ったこと自体が問題になります。
会議室のマイク位置は、発言が遠い席に合わせます。製造現場の会議室は機械音が入りやすいので、扉を閉め、空調の吹き出し口の真下を避けるだけでも文字起こしの精度が変わります。
文字起こしする
文字起こしは、音声認識の機能を使います。誤変換は必ず出ます。特に社名、製品名、工程の呼び名、地名は間違えます。「焼津」「磐田」「掛川」のような県内の地名も、文脈によっては別の漢字になります。
ここで全部を直す必要はありません。次の工程で使う用語だけ、置換で直しておけば足ります。
生成AIに整理させる
文字起こしを渡して、決定事項、保留、宿題、次回の予定に分けさせます。この工程がいちばん時間の節約になります。指示の書き方は後の節で扱います。
人が確認する
出てきた下書きを、会議に出ていた人が読みます。確認するのは3点です。決定していないことが決定事項の欄に入っていないか、発言者の取り違えがないか、数字と日付が合っているか。
配布する
配布先と保存場所を決めておきます。安全衛生委員会であれば、前述のとおり周知の方法まで条文で決まっているので、掲示するのか書面を配るのか社内ファイルに置くのかを先に決めます。
文字起こしを生成AIに渡す前にやること
渡し方を間違えると、会社が持っている情報が必要以上に外に出ます。

渡してよい範囲を決める
会議の内容には、取引先の名前、未公表の価格、人事の話が混ざります。文字起こしをそのまま貼る前に、その会議が何の話だったかを思い出してください。
個人情報保護委員会は生成AIサービスの利用に関する注意喚起で、個人情報を含むプロンプトの入力は特定した利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認する必要があること、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答結果の出力以外の目的で扱われる場合は法に違反する可能性があることを示しています。
人事評価、健康診断の結果、個人の懲戒に関する議事は、この線に触れます。生成AIに渡さず、手で書いてください。
置き換えてから渡す
取引先名や個人名は、「A社」「B氏」に置き換えてから渡す方法があります。置き換え表を手元に持っておき、出来上がった下書きで元の名前に戻します。手間はかかりますが、価格交渉や与信の話が含まれる会議ではこの一手間が効きます。
会社として使うサービスを決めておく
個人のアカウントで文字起こしを扱わせないために、会社として使うサービスとプランを決めます。この線引きをA4一枚にまとめる形は、静岡の中小企業の生成AI利用ルールにまとめてあります。
会議の種類ごとに型を変える
同じ指示文を全部の会議に使うと、どれも同じ顔の議事録になります。会議ごとに項目を変えてください。

安全衛生委員会の場合
条文が求めているのは、委員会の意見と、それを踏まえて講じた措置の内容です。この2つが並ぶ形にします。
添付は安全衛生委員会の文字起こしです。以下の項目で議事録の 下書きを作ってください。 ・開催日時/出席者(文字起こしに出てくる範囲のみ) ・審議事項ごとに「委員会の意見」と「講じた措置または今後の対応」を 1行ずつ ・次回までの宿題(担当と期限) 条件:文字起こしに書かれていないことは書かない。 決まっていない事項は「継続審議」と書く。 健康診断の個人結果に触れる発言は除いてください。
出てきた下書きは、産業医や衛生管理者の発言の趣旨が変わっていないかを本人に確認してもらいます。秋の行事とあわせた準備は、全国労働衛生週間2026の準備にまとめてあります。
取締役会の場合
会社法が求める形式があるので、ここはAIに構成を任せず、既存の様式に沿って埋めます。生成AIに頼むのは、長い議論の要約と、決議事項と報告事項の振り分けまでです。署名や記名押印は当然ながら人がやります。
保存期間が10年と長いので、保管場所とファイル名の付け方を先に決めておいてください。
部門会議・現場の打ち合わせの場合
ここはもっと軽くて構いません。決定事項、宿題(担当・期限)、次回の日程の3項目だけにします。
添付は製造部の定例会議の文字起こしです。 次の3項目だけで、A4半分に収まる長さでまとめてください。 ・決まったこと(箇条書き) ・宿題(担当者と期限をセットで) ・次回の日程と主な議題 条件:発言者の名前は役職で書く。雑談は入れない。 「たぶん」「かもしれない」で終わっている話は 決まったことに入れず、宿題に入れる。
現場書類の負担を全体として減らす考え方は、建設業の生成AI活用や経理・総務・人事の生成AI活用でも扱っています。
保存期間と保管場所を先に決める
議事録は、作るより探すほうに時間がかかることがあります。

期間は会議の種類で決まる
安全衛生委員会の記録は3年間、取締役会の議事録等は10年間です。社内で決めて残している会議は、法令上の期限はありませんが、3年を目安にしておくと後から遡れます。
保管場所は1か所にする
会議ごとに担当者のパソコンに散っていると、担当が変わった時点で探せなくなります。共有フォルダに「会議名/年度」でフォルダを切り、ファイル名を「日付_会議名_版」の形にそろえてください。
電子で保存する場合の確認
労働安全衛生規則第23条第3項の3号は、事業者の使用に係る電子計算機のファイルなどに記録し、各作業場に労働者が常時内容を確認できる機器を設置する方法を認めています。共有フォルダに置くだけでなく、現場から見られる端末があるかどうかまで確認してください。事務所のパソコンにしか入っていない状態では、周知の要件を満たしているとは言いにくくなります。
定着させるために決めておくこと
最初の1か月は2本立てで回す
いきなり全面的に切り替えず、これまでどおりの作り方と並行して1か月試します。両方を比べて、AIの下書きで足りない項目が見つかったら指示文に足していきます。
指示文を共有する
うまくいった指示文は、担当者の頭の中に置かず、テキストファイルにして共有フォルダに置きます。会議の種類ごとに1つずつあれば足ります。担当が変わったときに引き継げる形になっていることが重要です。
推進役を1人決める
指示文の更新と、困りごとの受け皿を1人に決めます。兼任で構いません。役割の置き方はAI推進担当が最初にやることにまとめてあります。
まとめ
議事録は、録音、文字起こし、整理、確認、配布の5工程に分けて、整理の部分を生成AIに任せる形がいちばん現実的です。
会議は3つに分けます。安全衛生委員会や取締役会のように法令で記録が求められる会議では、AIが作るのは下書きまでで、内容の確定、周知、署名、保存は人と会社の責任で行います。社内で決めて残している会議は、決定事項と宿題と次回日程の3項目に絞れば、作業は大きく減ります。記録を残さなくてよい会議に議事録を作り始めないことも、同じくらい大事です。
渡す前に人事や健康に関する発言を外し、取引先名を置き換える。この2つを習慣にすれば、日々の会議の記録づくりは安全に軽くできます。
よくある質問
Q. 安全衛生委員会の議事録を生成AIに作らせてもよいですか。
下書きを作らせることは問題ありません。ただし、労働安全衛生規則第23条が求めているのは委員会の意見と講じた措置の内容の記録と、議事概要の労働者への周知です。内容が正しいかどうかを確認して確定させるのは事業者側の責任です。健康診断の個人結果など、個人の健康情報に触れる発言は渡さないでください。
Q. 議事録の保存期間はどれくらいですか。
会議によって違います。安全衛生委員会は労働安全衛生規則第23条第4項で3年間、取締役会の議事録等は会社法第371条第1項で取締役会の日から10年間の本店備置が定められています。社内の会議は法令上の定めがないので、自社で年数を決めて運用します。
Q. 文字起こしの誤変換が多くて、結局直す時間がかかります。
先に用語を置換してから渡すのが有効です。社名、製品名、工程名、地名を一覧にしておき、文字起こしが終わった時点で一括置換します。会議で毎回出る用語は20語もないので、一覧を作るのは最初の1回だけで済みます。
Q. オンライン会議の自動要約機能があれば、生成AIは別に要りませんか。
自動要約で足りる会議も多くあります。使い分けの目安は、決定事項と宿題を項目立てで出したいかどうかです。自社の様式に合わせた形で出したい場合は、文字起こしを取り出して、自社の指示文で整理させるほうが揃います。
Q. 発言者の名前はどこまで書くべきですか。
会議の性質で変わります。取締役会のように発言と責任が結び付く会議では役職と氏名を書きます。部門会議では役職だけにしておくと、後から共有範囲を広げやすくなります。社内でどちらにするかを先に決めておいてください。
Q. 録音を取引先に伝えずに録ってもよいですか。
社内会議であっても、冒頭で録音する旨を伝えるのが前提です。取引先が入る打ち合わせでは、必ず事前に了解を取ってください。了解が得られない場合は、手元のメモから議事録を起こす形に切り替えます。
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参考・出典
- e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」(第23条:委員会の会議。毎月1回以上の開催、議事の概要の周知、委員会の意見と講じた措置の内容等の3年間保存)
- e-Gov法令検索「会社法」(第369条第3項:取締役会議事録の作成と署名・記名押印/第371条第1項:取締役会の日から10年間の本店備置)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(令和5年6月2日)
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(令和8年3月31日とりまとめ)