この記事の要点
「中小企業の何割が生成AIを使っているか」は、調査によって2割とも3割とも出ます。中小企業基盤整備機構の調査(2026年3月)ではAIの導入率が20.4%、商工中金の調査(2026年1月調査)では会社導入と個人利用の推奨を合わせた「生成AI積極活用層」が31.1%、静岡を含む帝国データバンクの東海4県調査(2026年3月)では業務で活用している企業が31.3%です。数字の違いは、何を「使っている」と数えたかの違いです。社内資料に引くときは、調査名・時期・定義をセットで書いてください。商工中金の調査では「会社での導入はなく、使用は個人の判断に任せている」が64.9%と最も多く、静岡の会社でも、まずはこの段階から抜け出すことが現実的な一歩になります。
3つの調査で数字が違う理由
3つの調査は、どれも2025年の終わりから2026年の春にかけて行われています。それでも数字が揃わないのは、対象とする会社と「使っている」の数え方が違うからです。

中小機構「AIの導入率」20.4%
独立行政法人中小企業基盤整備機構の「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」は、令和7年11月17日から12月12日に、全国の中小企業10,000社を対象にWebアンケートで行われました。AIの導入率は「全社的に導入している」と「一部の業務で導入している」の合計で20.4%です。導入を検討している企業18.6%と合わせると、39.0%が導入に前向きという結果でした(中小機構「調査結果のポイント」)。
注意したいのは、ここでの「AI」が生成AIだけではない点です。画像認識や音声認識、需要予測なども含みます。ただし導入済みの企業に使っているサービスを聞くと、「生成AI」が82.6%で最も多くなっています。
商工中金「生成AI積極活用層」31.1%
商工組合中央金庫の「中小企業の生成AIの利用にかかる調査」は、2026年1月の中小企業設備投資動向調査の付帯調査で、有効回答は3,892社です。導入状況を7つの選択肢で聞き、次の4つを合わせて「生成AI積極活用層」と呼んでいます(商工中金「調査結果」(2026年3月31日))。
- 自社専用のモデルやAIエージェントを開発し、導入している:0.9%
- 全社的にパッケージを導入している:4.1%
- 一部の部署・一部メンバーでパッケージを導入している:11.2%
- 会社での導入は行っていないが、個人登録の生成AIの活用を推奨している:14.9%
会社として契約していなくても、個人で登録した生成AIを業務に使うよう勧めていれば数に入る、という定義です。
帝国データバンク「活用企業」31.3%
帝国データバンク名古屋支店の調査は、愛知・岐阜・三重・静岡の東海4県の企業2,486社を対象に、2026年3月17日から31日にインターネットで行われ、1,097社が回答しました(回答率44.1%)。生成AIを業務で「活用している」企業が31.3%でした(帝国データバンク「東海4県・生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」(2026年5月28日))。
この調査は中小企業に限った調査ではなく、大企業も含みます。「中小企業の活用率」として引用すると不正確になるので、「東海4県の企業」と書いてください。
早見表|3つの調査の数字と定義
3つの調査の比較表
| 調査 | 実施時期 | 対象 | 回答数 | 数字 | 何を数えたか |
|---|---|---|---|---|---|
| 中小機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」 | 令和7年11月17日〜12月12日 | 全国の中小企業10,000社 | 1,647(導入状況の設問) | 20.4% | AIを全社的または一部の業務で導入している(生成AI以外のAIも含む) |
| 商工中金「中小企業の生成AIの利用にかかる調査」 | 2026年1月 | 全国の中小企業 | 3,892社 | 31.1% | 会社で導入、または個人登録の生成AIの業務利用を推奨している |
| 帝国データバンク「東海4県・生成AIに関する企業の動向調査」 | 2026年3月17日〜31日 | 東海4県の企業2,486社 | 1,097社 | 31.3% | 生成AIを業務で活用している(大企業も含む) |
引用するときの使い分け
社内の提案書で「中小企業の2割がAIを導入」と書くなら中小機構、「会社導入か推奨まで含めると約3割」なら商工中金、「静岡を含む東海の企業の3割が活用」なら帝国データバンク、と使い分けます。3つの数字を並べて平均を取るような使い方はしないでください。
東海4県の調査から静岡の会社が読み取れること
県単位で生成AIの活用状況を示した公的な統計は、2026年10月時点で見当たりませんでした。静岡の会社にとっていちばん近い数字は、静岡を含む東海4県を対象にした帝国データバンクの調査です。

活用している会社の8割超が効果を感じている
活用企業のうち「業務への効果が出ている」と答えたのは85.8%でした。主な活用業務は「文章の作成・要約・校正」が最も多く、「情報収集」「データの集計・分析」が続きます。悪影響・トラブルは「ない」が59.6%で最多でした。
懸念は情報の正確性と使いこなし格差
一方で、懸念・課題では「情報の正確性」が49.3%で最も高く、「専門人材・ノウハウ不足」「生成AIを活用すべき業務の範囲」「情報漏洩のリスク」が続きました。悪影響として「使いこなし格差の拡大」を挙げた企業は25.9%あります。
使う人と使わない人の差が開くことと、出力の確認の負担が、活用が進んだ会社の次の課題になっている、と読めます。正確性の確認と業務範囲の線引きは、社内ルールで先に決めておける部分です。
県別の内訳は要約に載っていない
公表ページの要約には、静岡県だけの数字は載っていません(詳細のPDFに県別の内訳があるかは、2026年10月時点で確認できていません)。「静岡県の企業の31.3%」と書くと誤りになるので、引用するときは「静岡を含む東海4県の企業の31.3%」と書いてください。
「個人の判断に任せる」が6割を超える
商工中金の調査で最も多かった回答は、「会社での導入はなく、使用は個人の判断に任せている」で64.9%でした。「会社での使用を禁止・制限している」は1.4%にとどまります。

会社が決めていない会社が多数派
つまり、中小企業の多くは生成AIを禁止も推奨もしていない状態です。社員が自分のアカウントで使っていても、会社としては把握していない、という状態がいちばん多いことになります。この状態から先に進む段階は、次のように並べられます。
- 個人の判断に任せる(会社としては決めていない)
- 個人の利用を推奨する(使ってよい業務と入力しない情報を決める)
- 一部の部署で導入する(会社として契約し、使う人を絞る)
- 全社的に導入する
2から3に進む前に、使ってよい業務と入力しない情報を決めた紙一枚があると、その後が進めやすくなります。決め方は静岡の中小企業の生成AI利用ルール|A4一枚で始めるにまとめています。
会社主導のほうが業務効率化の使い方が多い
同じ調査で、積極活用層の活用事例は「メール/報告書/議事録の作成・要約」が74.0%、「デスクワーク作業支援・自動化」が48.7%と、事務系・定型業務が上位でした。「会社導入」と「個人利用の推奨」で比べると、「デスクワーク作業支援・自動化」は会社導入のほうが14.5ポイント高く、報告書は「生成AIを業務効率化に活用するには会社主導によるアプローチが必要である可能性」を示唆しています。
段階ごとに課題が違う
課題の質問では、導入以前は「具体的な活用場面が不明」、導入検討の段階では「導入を推進する人材がいない」、導入後は「社内ルール・方針整備が追い付かない」が、それぞれ最も比率が高い結果でした。自社がどの段階にいるかで、先に手を付けることが変わります。
導入済みの会社は何に使っているか
中小機構の調査からは、導入済みの会社の使い方が見えます。

部門別では総務・管理部門が最多
業務分野別のAI導入率は、総務・管理部門が68.3%で最も多く、営業・販売・サービス部門60.3%、経営・企画部門58.5%、製造・生産部門34.9%の順でした。製造業の多い静岡県では、製造現場より先に、事務部門で使い始める会社が多いと考えておくと計画が立てやすくなります。
目的は業務効率化、効果は付加価値でも差
導入目的は「業務効率化/作業時間の短縮」が87.0%で最多、2位の「品質向上」32.3%を50ポイント以上上回りました。導入効果も「業務効率化/作業時間の短縮」が83.2%で突出しています。
目を引くのは、「付加価値創出」の効果で、AIが22.3%、従来のIT導入が7.4%と、約15ポイントの差がありました。また、必要な公的支援では「導入費用などの助成」77.9%に次いで「導入事例などの情報提供」が70.5%と高く、成功事例や活用事例の情報が十分に入手できていない企業が83.3%ありました。中小企業が求めているのは、費用の支援と同じくらい、使い方の具体例だということです。
静岡市の事例集に出てくる生成AIの使い方
具体例を探すなら、静岡市が公開している「中小企業等DX支援事業【DXモデル事例集】」が近くて使いやすい資料です。市内の中小企業が専門の支援を受けてデジタル化に取り組んだ結果を、年度ごとにまとめています。

製造業の加工指示の帳票づくり
令和6年度の事例集では、市内の製造業の会社が、ChatGPTを活用して、主要業務で使用する帳票3種と在庫データの作成を同時処理するVBAコードを書き上げ、マクロを構築しています。効果として、加工指示に係る業務時間の削減と、経営から現場までのAI/ITリテラシー向上が挙げられています。
事例集の担当者の声には、はじめは作ってもらったVBAコードの意味が分からなかったが、生成AIの活用方法を教わり、ChatGPTなどを使いながら、どのコードがどの処理をしているのかを読み解けるようになった、という記述もあります。生成AIを「答えを出す道具」ではなく「既存の仕組みを読み解く道具」として使った例です。
教室運営のスケジュール管理と顧客管理
同じ事例集には、教育分野の事業者が、ChatGPTを使いながらGoogleのスクリプト機能や自動化ツールの使い方を習得し、案件スケジュールの登録と顧客管理を自動化した事例も載っています。効果として、工数の削減と、創作活動などのコア業務の時間の確保が挙げられています。
どちらも、高価なシステムを入れたのではなく、手元のExcelやGoogleの道具を生成AIの助けで使いこなした例です。
自社の現在地を測る記入表
調査の数字と自社を比べるには、同じ物差しで自社を測る必要があります。
導入状況の記入表
次の表の各行に「はい/いいえ」で答えると、商工中金の調査の選択肢のどこにいるかが分かります。
| 確認すること | はい/いいえ | 当てはまる段階 |
|---|---|---|
| 会社として生成AIのサービスを契約し、全社に使わせている | (記入) | 全社的にパッケージを導入している |
| 会社として契約し、一部の部署・一部の人だけが使っている | (記入) | 一部の部署・一部メンバーでパッケージを導入している |
| 会社の契約はないが、個人で登録した生成AIを業務に使うよう勧めている | (記入) | 個人登録の生成AIの活用を推奨している |
| 会社として何も決めておらず、使うかどうかは本人に任せている | (記入) | 個人の判断に任せている |
| 会社として使用を禁止・制限している | (記入) | 会社での使用を禁止・制限している |
あわせて、中小機構の調査の部門別にならい、総務・管理、営業・販売・サービス、経営・企画、製造・生産のどの部門で使っているかも書き出しておくと、次にどこへ広げるかの議論がしやすくなります。
調査の数字を社内資料に使うときの注意
提案書や稟議に調査の数字を引くときは、次の3点をそろえます。
- 調査名と実施時期を書く(「中小機構の調査(令和7年11〜12月実施)では」のように)
- 何を数えた数字かを書く(「AIの導入率」なのか「生成AIの活用企業」なのか)
- 対象を書く(全国の中小企業か、東海4県の企業か)
生成AIに調査のPDFを要約させる場合は、出てきた数字を必ず元のPDFと見比べてください。グラフの中の数字は読み取りを誤りやすく、選択肢の名前も短く言い換えられがちです。この記事でも、数字は各機関の公表資料の本文にある値だけを使っています。
静岡県内で相談できる先
導入の段階に応じて、県内には相談できる先がいくつかあります。県や市の窓口、商工団体の使い分けは静岡県のDX・AI支援窓口|相談先4層の選び方で整理しています。社内で使い方を広める段階なら中小企業の生成AI研修の始め方|静岡企業の設計手順、推進役を決める段階ならAI推進担当が最初にやることが参考になります。県や市の役所自身がどう導入を進めたかは静岡県と静岡市・浜松市の生成AI導入状況で読めます。
まとめ
中小企業の生成AI活用率は、中小機構の「AIの導入率」なら20.4%、商工中金の「生成AI積極活用層」なら31.1%、静岡を含む東海4県の企業では31.3%です。数字の違いは定義の違いなので、引用するときは調査名・時期・定義をそろえて書いてください。最も多いのは「個人の判断に任せている」64.9%で、静岡の会社にとっても、使ってよい業務と入力しない情報を決めることが次の一歩になります。事例は静岡市の事例集が身近で、手元のExcelやGoogleの道具を生成AIの助けで使いこなした例が載っています。
よくある質問
Q. 「中小企業の生成AI利用率」として一つだけ数字を挙げるなら、どれがよいですか。
目的によります。会社として導入しているかを示したいなら、中小機構の「AIの導入率」20.4%が近い数字です。ただしこの数字は生成AI以外のAIも含みます。個人利用の推奨まで含めた広い意味なら、商工中金の「生成AI積極活用層」31.1%です。どちらを使う場合も定義を書き添えてください。
Q. 静岡県だけの生成AIの活用率はありますか。
2026年10月時点で、県単位の公的な統計は見当たりませんでした。帝国データバンクの東海4県の調査は静岡を含みますが、公表ページの要約に県別の数字は載っていません。
Q. 使っていない会社は少数派ですか。
「使っていない」の数え方によります。商工中金の調査では、会社として決めずに個人の判断に任せている会社が64.9%で、禁止・制限は1.4%でした。会社として導入・推奨していない会社は、まだ多数派です。
Q. 導入した会社はどんな効果を感じていますか。
中小機構の調査では「業務効率化/作業時間の短縮」が83.2%で突出しています。帝国データバンクの東海4県の調査でも、活用企業の85.8%が「業務への効果が出ている」と答えています。
Q. 生成AIに調査の要約を任せてもよいですか。
構成をつかむ下書きには使えます。ただし数字は元の資料と必ず照合してください。グラフ内の数字や選択肢の名前は、要約の段階で取り違えが起きやすい部分です。
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参考・出典
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査(2026年3月)調査結果のポイント」(調査期間 令和7年11月17日〜12月12日)
- 商工組合中央金庫「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」(2026年3月31日)
- 帝国データバンク「東海4県・生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」(2026年5月28日)
- 静岡市「中小企業等DX支援事業【DXモデル事例集】」(更新日 2026年3月27日)
- 静岡市「令和6年度中小企業等DX支援事業 DXモデル事例集」