結論から書きます。「生成AI研修の助成金」という名前の制度は存在しません。使えるのは、厚生労働省の人材開発支援助成金という汎用の訓練助成のうち、自社の研修の中身が要件に当てはまるコースです。そして最大のつまずきは金額ではなく順番で、訓練を始める前に計画届を出していない時点で対象外になります。静岡県内の企業にとっては、窓口が2026年9月28日から一部変わることも押さえどころです。
「AI研修の助成金」を探すと見つからない理由
生成AIの社内研修を検討する会社から最初に出てくる質問は、たいてい「AI研修に使える助成金はありますか」です。この聞き方だと、検索しても制度が見つかりません。国の訓練助成は訓練のテーマ名では作られていないからです。
厚生労働省の人材開発支援助成金は、事業主が雇用する労働者に訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。同ページには次の7コースが並んでいます。
- 人材育成支援コース
- 教育訓練休暇等付与コース
- 人への投資促進コース
- 事業展開等リスキリング支援コース
- 建設労働者認定訓練コース
- 建設労働者技能実習コース
- 障害者職業能力開発コース
どこにも「AI」「生成AI」「DX研修」というコース名はありません。判定されるのは、訓練の目的・時間・形式・対象者です。つまり「生成AIの研修だから対象」ではなく、「この訓練が職務に関連し、OFF-JTで、規定の時間を満たしているから対象」という順で見られます。
だから、制度を探す前に自社の研修の設計を固めるほうが早く進みます。研修そのものの組み立ては中小企業の生成AI研修の始め方にまとめてあります。設計が先、制度は後です。
なお、設備やソフトウェアの導入費を対象にする補助金とは制度の系統が違います。導入側の制度は静岡のAI導入補助金5選で扱っているので、「人を訓練する」のか「ものを入れる」のかで先に分けてください。
【2026年9月4日 続報】
最低賃金の引き上げ(10月15日から1,154円)に合わせて賃上げの原資を作る業務改善助成金は、申請期限が10月14日です。詳しくは 静岡県最低賃金2026は1,154円へ|10月15日発効・助成金は10/14締切
AI研修と噛み合うのは7コースのうち3つ

7コースのうち、生成AIの社内研修で現実的に検討対象になるのは次の3つです。
人材育成支援コースは、雇用する被保険者に職務に関連した知識・技能を習得させる訓練が対象です。厚生労働省のページでは、厚生労働大臣の認定を受けたOJT付き訓練や、非正規雇用労働者を対象とした正社員化を目指す訓練も含むと説明されています。汎用性が高い代わりに、AI固有の加算があるわけではありません。
人への投資促進コースは、デジタル人材・高度人材を育成する訓練、労働者が自発的に行う訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)などを対象にしたコースです。厚生労働省のリーフレット「令和8年度版 人への投資促進コースのご案内(令和8年4月8日版)」には、このコースが令和4〜8年度の期間限定助成であると明記されています。2026年度は令和8年度にあたるため、この記載どおりなら現行の枠組みでは今年度が区切りです。令和9年度以降にどうなるかは、2026年9月4日時点で公式に確認できていません。
事業展開等リスキリング支援コースは、新たな事業の立ち上げなど事業展開等に伴って必要になる知識・技能の訓練を対象にします。厚生労働省のリーフレット「令和8年度版 事業展開等リスキリング支援コースのご案内(令和8年4月8日版)」では、対象となる訓練の類型のひとつとして、企業内のデジタル・デジタルトランスフォーメーション(DX)化やグリーン・カーボンニュートラル化を進めるにあたり、これに関連する業務に従事させる上で必要となる専門的な知識および技能の習得をさせるための訓練が挙げられています。生成AIの社内展開はここに当たる可能性がありますが、当たるかどうかは労働局の審査事項です。
3つのうちどれを選ぶかは、研修の位置づけで決まります。「全社員に生成AIの基礎を教える」なら人材育成支援コース、「サブスク型の学習サービスを入れて継続的に学ばせる」なら人への投資促進コースの定額制訓練、「新しい事業や工程のためにDX化を進める人材を育てる」なら事業展開等リスキリング支援コース、というのが素直な当てはめです。
事業展開等リスキリング支援コースの要件を具体的に見る

このコースは要件が最も具体的なので、自社の研修計画を照らし合わせる物差しとして使えます。厚生労働省のリーフレットに記載されている支給対象は次のとおりです。
- 対象者は、事業主は雇用保険適用事業所の事業主、労働者は雇用保険被保険者
- 訓練時間数が10時間以上であること
- OFF-JT(企業の事業活動と区別して行われる訓練)であること
- 職務に関連した訓練で、事業展開に伴う新分野の訓練、DX化やグリーン・カーボンニュートラル化に関連する訓練、人事・人材育成計画に基づき今後従事予定の職務に必要な訓練のいずれかに該当すること
「事業展開」は、訓練開始日から起算して3年以内に実施する予定のもの、または6か月以内に実施したものである必要があると書かれています。また本コースでは、事業展開などの内容を記載した事業展開等実施計画(様式第1-3号)を職業訓練実施計画届と併せて提出する必要があります。人事および人材育成に関する計画に基づく類型を使う場合は、あらかじめ認定経営革新等支援機関の確認を受ける必要があるとも記載されています。
助成率と限度額は、同リーフレットに次のように書かれています。
- 経費助成は中小企業75%、大企業60%
- 賃金助成は1人1時間あたり中小企業1,000円、大企業500円
- 設備投資加算は1コースの一の導入費用あたり中小企業50%(大企業は対象外)
- 受講者1人あたりの経費助成限度額は、中小企業で10時間以上100時間未満30万円、100時間以上200時間未満40万円、200時間以上50万円
- eラーニング、通信制、定額制サービスによる訓練は経費助成のみで、賃金助成は対象外
- 定額制サービスによる訓練の経費助成限度額は受講者1人1月あたり2万円
- eラーニングおよび通信制による訓練等の限度額は中小企業15万円、大企業10万円
- 1事業所が1年度に受給できる助成額は1億円
ここで注意したいのは、これらは制度上の助成率と上限であって、支給が決まった金額ではないことです。支給は労働局の審査を経て決まります。研修費用の見積りにこの率を掛けた金額を、確定した自己負担額のように社内資料へ書くのは避けてください。要件を満たさない部分は対象外になりますし、そもそも厚生労働省が同じページで注意喚起しています。
人への投資促進コースはサブスク型の学習と相性がよい
生成AIの学習は、集合研修を一度やって終わりにはなりません。モデルもツールも変わるので、継続的に触れる環境のほうが実務に効きます。ここで効いてくるのが定額制訓練です。
リーフレットによれば、人への投資促進コースには次の5つのメニューがあります。
- 定額制訓練(サブスクリプション型の研修サービスによる訓練の実施)
- 高度デジタル人材訓練・成長分野等人材訓練(高度デジタル人材等の育成のための訓練の実施)
- 情報技術分野認定実習併用職業訓練(IT分野未経験者の即戦力化のための訓練の実施)
- 自発的職業能力開発訓練(労働者が自発的に受講した訓練費用を負担)
- 長期教育訓練休暇等制度(働きながら訓練を受講するための休暇制度等を導入)
助成率は、定額制訓練が経費助成率で中小企業60%・大企業45%で、賃金助成はありません。リーフレットには、賃金要件または資格等手当要件を満たした場合に15ポイント上乗せした率が併記されています。高度デジタル人材訓練・成長分野等人材訓練は、ITスキル標準・DX推進スキル標準レベル3・4となる訓練等について経費助成率が中小企業75%・大企業60%、賃金助成額が1人1時間あたり中小企業1,000円・大企業500円と記載されています。
なお2026年度に入ってから、このコースには新規採用助成・職務代行助成が追加されました(令和8年4月8日)。同じ日に、人材育成支援コースには中高年齢者実習型訓練が新設され、事業展開等リスキリング支援コースには設備投資加算が新設されています。年度初めの改正なので、昨年度の資料を見て準備すると条件が合いません。
申請の順番|訓練を始めてからでは間に合わない

助成金で最も多い取りこぼしが順番です。リーフレットに書かれている流れは次のとおりです。
Step0として、職業能力開発推進者の選任、事業内職業能力開発計画の策定と自社の労働者への周知を行います。ここは助成金の申請書ではなく社内の体制づくりで、着手が遅れがちな部分です。
Step1(計画提出)では、事業内職業能力開発計画に基づいて職業訓練実施計画を作成し、必要書類を訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に管轄労働局へ提出します。主な提出書類は職業訓練実施計画届、事業展開等実施計画、対象労働者一覧などで、添付書類として訓練内容を確認できるカリキュラムなどが挙げられています。
Step2(訓練実施)では、職業訓練実施計画に基づいて訓練を実施し、支給申請までに訓練にかかった経費全額を支払います。
Step3(支給申請)は、訓練終了日の翌日から2か月以内に必要書類を管轄労働局へ申請します。支給申請書や賃金助成の内訳等助成額を算定した書類、OFF-JT実施状況報告書のほか、訓練期間中の労働条件がわかるもの、事業主が訓練費用を負担したことを確認できる振込通知書、出勤簿・タイムカード・賃金台帳の写しなどが挙げられています。
現場感覚で言えば、研修の見積りを取った時点ではもう遅い場合があるということです。1か月前という締切は、社内稟議・講師選定・カリキュラム確定の全部がその前に終わっている必要があることを意味します。生成AI研修は内容が固まりにくいので、ここが特に詰まります。
静岡での窓口|2026年9月28日から一部が変わる
静岡県内の事業主にとって実務上の要点は、どの窓口に出すかです。静岡労働局の助成金のご案内には、助成金の種類ごとに問い合わせ先が異なることが明記され、人材開発支援助成金は職業安定部職業対策課・静岡労働局助成金センターが案内する助成金として並んでいます。助成金センターの所在として、静岡安藤ハザマビル・日土地静岡ビルが挙げられています。
同ページには重要なお知らせとして、令和8年9月28日(月)から、一部助成金の受付・相談窓口が変更となりますと掲示されています。詳細はページ内のリーフレットに示されているため、この時期に相談・申請を予定している場合は、出向く前に必ず最新の掲示を確認してください。
静岡県は東西に長く、浜松市と静岡市という2つの政令市を中心に企業が分散しています。窓口に何度も足を運ぶ前提で段取りを組むと、西部・東部の企業ほど不利になります。厚生労働省のページでは人材育成支援コース・教育訓練休暇等付与コース・人への投資促進コース・事業展開等リスキリング支援コースについて電子申請(雇用関係助成金ポータル)の案内が置かれているので、電子申請を前提に社内の書類作成を組み立てるほうが現実的です。
制度の相談先を横断的に整理したものは静岡県のDX・AI支援窓口にあります。訓練助成は労働局、導入補助は別系統、という切り分けを先にしておくと迷いません。
2026年度に入ってからの改正を見落とさない
このところ改正が続いています。厚生労働省のページに掲載されている主なものは次のとおりです。
- 令和8年4月8日|人材育成支援コースに中高年齢者実習型訓練を新設
- 令和8年4月8日|人への投資促進コースに新規採用助成・職務代行助成を追加
- 令和8年4月8日|事業展開等リスキリング支援コースに設備投資加算を新設
- 令和8年4月8日|コース共通の変更点
- 令和8年5月14日|支給要領改正により、受講料等の価格設定に関する疎明書(様式第28号)の提出が必要
- 令和8年8月3日|事業展開等リスキリング支援コースの変更、様式第8-3号(eラーニング訓練実施結果報告書)の改正様式の使用
とくに疎明書は、訓練計画届の提出時期を問わず、令和8年5月14日時点で支給申請が行われていないもの、支給申請は行われているが支給決定または不支給決定がされていないものが対象になると書かれています。「去年と同じ書類でいけるだろう」は通りません。
改正の追跡そのものは、生成AIに向いた仕事です。公式ページの更新履歴を読ませて自社に関係する箇所だけ要約させる、という使い方なら安全に回せます。制度文書の読み解きを社内でどう回すかは経理・総務・人事の生成AI活用の考え方が近いので、あわせて読んでください。
助成金ありきで研修を組むと失敗する
厚生労働省のページには、事業主向けの注意喚起として「「訓練経費」は無料になりません」という一文が掲げられています。あわせて「不正受給した事業主は公表されます」とも書かれています。
静岡労働局も、不正受給防止対策として立入検査、従業員・取引先等への調査、関係書類の借り上げなどの取り組みを行っていること、調査や書類等の提出に協力が得られない場合は助成金を支給できなくなることを明記しています。
現場でよく見るのは、次のような順番の逆転です。
- 助成対象になる時間数に合わせて、必要のない講義を足して10時間にする
- 助成の締切に合わせて、受講者の選定を後回しにする
- 訓練の中身より、書類が通る形を優先する
こうして組んだ研修は、たいてい社内で使われません。研修の目的を先に決め、その形が結果として要件に当てはまるかを確認する、という順番を守ってください。生成AIの研修は特に、扱う業務が決まっていないと中身が空洞になります。誰が何の書類を書く時間を減らすのか、から決めるべきです。
導入の旗振り役をどう置くかはAI推進担当が最初にやることを参照してください。担当者が決まっていない状態で助成金の話を始めると、申請書の作成そのものが宙に浮きます。
静岡の中小企業がつまずきやすい5つの確認
- 雇用保険の適用事業所か、対象者は被保険者か。役員のみの受講、業務委託の受講は対象になりません。
- OFF-JTとして区別できる形になっているか。通常業務の中で教える形は、この枠組みでは扱いが変わります。
- 訓練時間の数え方。事業展開等リスキリング支援コースでは10時間以上が要件です。休憩や打合せを含めた見かけの時間で数えないでください。
- 費用の支払い時期。支給申請までに訓練にかかった経費全額を支払っている必要があります。分割払いの契約は要注意です。
- 計画届の締切。訓練開始日の1か月前を過ぎたら、その訓練は対象になりません。次回に回す判断も必要です。
このうち1〜3は、社内で判断せず必ず労働局に確認してください。要件の当てはめは審査側が行います。
よくある質問
Q. 生成AIの研修は「DX化に関連する訓練」として認められますか。
A. 厚生労働省のリーフレットには、企業内のデジタル・DX化を進めるにあたり、これに関連する業務に従事させる上で必要となる専門的な知識および技能の習得をさせる訓練が対象類型として書かれています。ただし個別の研修が当てはまるかどうかは管轄労働局の審査事項で、事前に確認する必要があります。対象となる場合があります(要件審査あり)、という理解で準備してください。
Q. オンライン講座やeラーニングでも対象になりますか。
A. 事業展開等リスキリング支援コースでは、eラーニング、通信制、定額制サービスによる訓練は経費助成のみで賃金助成は対象外と記載されています。経費助成の限度額もeラーニング・通信制は中小企業15万円、定額制サービスは受講者1人1月あたり2万円と別に定められています。
Q. 助成金でAIツールの利用料はまかなえますか。
A. 定額制訓練はサブスクリプション型の研修サービスを対象にしたメニューです。業務で使うツールの利用料そのものと、研修サービスの利用料は分けて考える必要があります。判断は労働局に確認してください。
Q. 補助金と助成金は同時に使えますか。
A. 制度ごとに併給の可否が異なります。同じ経費を二重に受けることはできないのが原則なので、対象経費の切り分けを先に整理してください。導入側の制度は静岡のAI導入補助金5選にまとめています。
Q. 申請書類の下書きを生成AIに書かせてよいですか。
A. 社外に出す申請書類は、最終的に人が内容を確認して確定してください。制度の説明文の要約や、社内向けの説明資料のたたき台までなら現実的です。事業所名・個人名・賃金情報などを入力しないことが前提です。
まとめ|制度に合わせるのではなく、設計に制度を当てる
AI研修専用の助成金はありません。あるのは汎用の訓練助成で、当てはまるかどうかは目的・時間・形式・対象者で判定されます。だから順番はいつも同じです。研修を設計し、要件に当てはまるコースを探し、訓練開始の1か月前までに計画届を出す。
静岡県内では、人材開発支援助成金の窓口は静岡労働局助成金センター等が案内しており、2026年9月28日から一部の助成金で受付・相談窓口が変わります。県が東西に長い以上、電子申請を前提に社内の段取りを組むほうが確実です。
制度は毎年変わります。この記事の数値と要件も、申請前に必ず公式ページの最新版で確認してください。相談したいことがあればお問い合わせから、運営の考え方はこのサイトについてをご覧ください。
出典・参考
- 厚生労働省「人材開発支援助成金」(2026年9月4日閲覧)
- 厚生労働省「令和8年度版 事業展開等リスキリング支援コースのご案内(令和8年4月8日版)」(PDF)
- 厚生労働省「令和8年度版 人への投資促進コースのご案内(令和8年4月8日版)」(PDF)
- 静岡労働局「助成金のご案内」(2026年9月4日閲覧・令和8年9月28日からの窓口変更の掲示あり)
- 中小企業庁「認定経営革新等支援機関」(事業展開等リスキリング支援コースの一部類型で確認が必要)
この記事で確認できていないこと(2026年9月4日時点)
- 人への投資促進コースの令和9年度以降の扱い。リーフレットには令和4〜8年度の期間限定助成と記載されていますが、次年度以降の方針は公式に確認できていません。
- 静岡労働局の2026年9月28日以降の窓口の具体的な変更内容。ページ内のリーフレットに記載されているため、本文では変更がある事実のみを扱っています。
- 静岡県内で人材開発支援助成金を活用した企業数・業種の内訳。都道府県別の公表を確認できていません。
- 生成AIの研修が各コースの対象になるかどうかの一般的な判断基準。個別審査であり、公式に一律の基準は示されていません。