この記事の要点
南海トラフ地震臨時情報は、異常な現象を観測した直後に「調査中」が出て、最短2時間程度で「巨大地震警戒」「巨大地震注意」「調査終了」のいずれかが続きます。この2時間の間に、従業員への一報を一から書く余裕はありません。用意しておくのは3通りの社内文書です。生成AIは、この下書きを平時に作るところで使えます。発表内容の判断や要約は任せず、気象庁と自治体の発表をそのまま引く形にします。12月第1日曜の地域防災訓練は、作った文書を試す場として使えます。
臨時情報は「調査中」から始まって最短2時間で続報が出る
まず情報の出方を押さえます。気象庁の「南海トラフ地震に関連する情報」についてに、発表条件が整理されています。

4つのキーワード
| キーワード | 発表される条件 | 出るまでの時間 |
|---|---|---|
| 調査中 | 監視領域内でマグニチュード6.8以上の地震、ひずみ計の有意な変化などを観測 | 現象を観測した直後 |
| 巨大地震警戒 | 想定震源域内のプレート境界でモーメントマグニチュード8.0以上と評価 | 現象発生後、最短で2時間程度 |
| 巨大地震注意 | 監視領域内でモーメントマグニチュード7.0以上、または想定震源域内で通常と異なるゆっくりすべりと評価 | 現象発生後、最短で2時間程度 |
| 調査終了 | 警戒・注意のいずれにも当たらないと評価 | 評価の完了後 |
その後の推移や、評価検討会の定例会合の結果は「南海トラフ地震関連解説情報」として発表されます。
会社が困るのは最初の2時間
「調査中」が出た時点では、まだ何とも言えません。しかし社内には情報だけが先に届きます。スマートフォンの通知を見た従業員から、帰宅してよいのか、明日は出社なのか、配送は止めるのかという質問が同時に上がります。
気象庁は、調査中の段階の防災対応として「個々の状況に応じて避難等の防災対応を準備・開始し、今後の情報に注意してください」と案内しています。会社としては、この「準備・開始」に当たるものを先に決めておくことになります。決めていないと、2時間のあいだ担当者が電話対応に追われ、肝心の初動が遅れます。
キーワードごとに呼びかけの中身が変わる
気象庁の同じページに、キーワード別の防災対応の例が示されています。
「巨大地震警戒」では、地震発生後の避難では間に合わない可能性のある住民は1週間の事前避難を行う、とされています。あわせて、日頃からの備えの再確認に加えて、すぐ逃げられる態勢の維持や非常持出品の常時携帯といった特別な備えを行い、必要に応じて自主的に避難する、という内容です。1週間経過してもさらに1週間は、備えの再確認と特別な備えを続けるとされています。
「巨大地震注意」では、日頃からの備えの再確認に加えて、同じ特別な備えを行う、という内容になります。
「調査終了」では、地震の発生に注意しながら通常の生活を行う、ただし大規模地震発生の可能性がなくなったわけではない、という点に留意が必要とされています。
なお、情報発表時に防災対応をとるべきエリアは、南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法に基づいて指定された「南海トラフ地震防災対策推進地域」です。自社の所在する市町が指定されているかは、内閣府の南海トラフ地震臨時情報が発表されたら!のページから確認できます。
平時に用意しておく社内文書は3通り
事前に作っておく文書は、多くても3つで足ります。

1つ目:「調査中」が出たときの一報
内容は3行で構いません。何が起きたか(気象庁が調査中と発表したこと)、いま社内で何をするか(通常業務は継続するのか、いつまでに次の連絡を出すのか)、誰に聞けばよいか(担当者と連絡先)。
避けたいのは、憶測を書くことです。「大きな地震が来る可能性が高い」といった書き方はしません。発表された事実と、自社の対応だけを書きます。
2つ目:「巨大地震注意」が出たときの一報
ここでは、備えの再確認を具体的に指示します。事業所の中で倒れそうな棚の固定、通路の確保、非常持出品の確認、帰宅経路の再確認あたりです。自社の建物と作業内容に合わせて、あらかじめ項目を書き出しておきます。
あわせて、勤務をどうするかを書きます。通常どおりなのか、時差出勤にするのか、屋外作業や高所作業を止めるのか。ここが空欄のままだと、現場は動けません。
3つ目:家族向け・取引先向けの案内
従業員の家族から会社へ問い合わせが来ることがあります。また、納品先から「明日の便は出るのか」と聞かれます。社内向けとは別に、外に出せる短い案内を用意しておくと、担当者が同じ説明を何度も書かずに済みます。
生成AIで下書きを作る手順
3つの文書を、平時にまとめて作ります。

渡す材料
渡すのは公表資料と自社の情報です。気象庁のキーワード別の防災対応の説明、内閣府の防災対応ガイドライン、自社の事業所の所在地と業種、就業時間、通勤手段の内訳、夜勤の有無。この程度で下書きは出せます。
従業員の氏名や住所、緊急連絡先の一覧は渡しません。連絡文の下書きに個人情報は要りません。入力してよい情報の線引きは静岡の中小企業の生成AI利用ルールにまとめてあります。
指示の書き方
キーワードごとに1回ずつ頼みます。3つまとめて頼むと、内容が混ざります。
静岡県内の製造業の事業所(従業員80名・日勤のみ・工場と事務所が同一敷地) の総務担当者として、社内一斉メールの文面を作ってください。 ・場面:気象庁が「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した直後 ・長さ:400字以内 ・含める内容:発表された事実/本日の勤務の扱い/各自が確認すること (棚の固定・通路・非常持出品・帰宅経路)/次の連絡の予定時刻/問い合わせ先 ・条件:私が渡していない事実、被害の予測、地震が起きる確率は書かない。 気象庁や自治体の発表を要約せず、「気象庁の発表をご確認ください」と案内する。 埋められない箇所は[ ]で空欄にする。
「私が渡していない事実は書かない」と「空欄は[ ]にする」の2つは必ず入れてください。これがないと、生成AIは避難所の名前や震度をそれらしく埋めてきます。
出来上がりの確認
3点を見ます。キーワードの名前が正確か(「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」の表記)、地震の発生確率や被害の予測が混ざっていないか、自社にない設備や役職の名前が入っていないか。
確認が済んだら、日付と担当者名を空欄にした状態で保存します。当日はそこを埋めて送るだけにします。
生成AIに任せないこと
任せないところをはっきりさせておきます。

出すか出さないかの判断
判断は人が決めます。文面が用意してあっても、送信するかどうか、いつ送るかは担当者の判断です。文面を用意する目的は、判断してから送るまでの時間を短くすることであって、判断そのものを省くことではありません。
発表内容の要約
要約はさせません。臨時情報の中身は気象庁と自治体が出したものをそのまま案内し、社内文書では「気象庁の発表をご確認ください」とリンクや連絡先を示す形にします。要約の過程で意味がずれると、行動の指示として誤って伝わります。
当日の状況判断
当日の判断も同じです。通信が不安定な状況で、生成AIサービスにつながる保証はありません。当日使えないかもしれない道具を、初動の手順に組み込まないでください。生成AIの役割は、平時に文書を用意しておくところまでです。
事業全体をどう継続するかという話は、別の枠組みになります。BCP策定を生成AIで進める手順にまとめてあります。
12月の地域防災訓練に合わせて試す
作った文書は、使ってみないと粗が分かりません。静岡には、試す時期が決まっています。

11月が強化月間、12月第1日曜が地域防災の日
静岡県は、平成7年の阪神・淡路大震災を機に「静岡県地震対策推進条例」を制定しています。県の令和7年度地震防災強化月間のページには、毎年11月の「地震防災強化月間」が、12月第1日曜日の「地域防災の日」を目途に実施される地域防災訓練に向けた広報・啓発の期間である、と書かれています。
12月第1日曜日は、2026年は12月6日にあたります。令和8年度の実施方針は、2026年9月時点では県の公式ページに掲載が確認できません。例年10月上旬に公表されているので、自社の予定に入れる前に県のページを確認してください。
訓練で試すこと
大がかりなことはしません。用意した3つの文書のうち1つを、実際に送ってみます。宛先を訓練用に限定し、件名に「【訓練】」と入れて送るだけです。
見るのは3点です。届かない人がいないか、文面を読んで各自が何をすればよいか分かるか、送信までに何分かかったか。この3点が分かれば、直すところは自然に見えてきます。
訓練の案内文と報告書も下書きできる
訓練そのものの案内文、当日の進め方のメモ、終わったあとの報告書も、生成AIで下書きできます。こちらは緊急性がないので、遠慮なく使える場面です。
報告書は、次年度の担当者が読む前提で書きます。「何人が参加したか」より「どこで詰まったか」を残すほうが役に立ちます。書式が決まっていない会社は、まず1枚の型を作って毎年使い回してください。安全衛生の年間行事とあわせて段取りする方法は全国労働衛生週間2026の準備で扱っています。
県の資料を材料にすると自社向けに落としやすい
一から考えるより、県が出している資料を材料にしたほうが早く進みます。
企業向けの3分冊
静岡県は企業向けに「巨大地震を生き抜く力」という資料を3分冊で公開しています。Vol.1が企業の安全確保(人命を守り、二次災害を防ぐための対策)、Vol.2が地域の安全への貢献(企業の持つ組織力・資材力・技術力を生かした地域貢献)、Vol.3が企業活動の継続(災害時に事業資産の被害を最小限に抑え、事業の継続や早期復旧のための取組)という構成です。
被害想定と臨時情報のページ
自社の被害の見積もりについては、県の静岡県第4次地震被害想定が入口になります。県の南海トラフ地震臨時情報のページとあわせて、担当者がブックマークしておく場所です。
これらのPDFを生成AIに読ませて、自社の業種と規模に関係する部分だけを抜き出させる使い方はできます。その際も「書かれていない項目は記載なしと書く」を条件に入れ、抜き出した内容は元のPDFと突き合わせてから使ってください。
作った文書の置き場所を決める
最後に置き場所です。せっかく作っても、当日開けなければ意味がありません。
社内サーバーだけに置くと、停電時に取り出せません。担当者と代理の2人が、それぞれ手元の端末からも開ける状態にしておきます。紙で1部、防災用品と一緒に置いておく会社もあります。
更新は年1回で十分です。地域防災訓練で使った直後が、いちばん直しやすいタイミングです。担当者が代わったときは、必ず引き継ぎ項目に入れてください。
まとめ
南海トラフ地震臨時情報は「調査中」から始まり、最短2時間程度で「巨大地震警戒」「巨大地震注意」「調査終了」のいずれかが続きます。その場で連絡文を書く余裕はないので、3通りの社内文書を平時に用意しておきます。
生成AIは、この下書きを作るところで使います。渡すのは公表資料と自社の勤務条件だけにして、個人情報は入れません。発表内容の要約と、出すか出さないかの判断は人がやります。作った文書は12月第1日曜の地域防災訓練で1度送ってみて、届かない人と分かりにくい表現を見つけて直す。この繰り返しが、いちばん確実です。
よくある質問
Q. 南海トラフ地震臨時情報が出たら、会社は必ず休みにする必要がありますか。
一律の決まりはありません。気象庁が示しているのは、キーワードに応じた防災対応の例です。「巨大地震警戒」では、地震発生後の避難では間に合わない可能性のある住民の1週間の事前避難が挙げられています。事業所ごとの対応は、立地・建物・作業内容によって変わるため、自治体の呼びかけと自社の状況をあわせて判断してください。
Q. 「調査中」の段階で従業員に連絡すべきですか。
連絡しないほうが混乱する場合が多いです。情報自体はスマートフォンの通知などで各自に届くので、会社として何も言わないと、問い合わせが担当者に集中します。事実と当面の勤務の扱い、次の連絡の予定時刻の3つだけを、短く出しておくのが現実的です。
Q. 連絡文の下書きに生成AIを使って問題ありませんか。
平時に作る分には問題ありません。ただし、従業員の氏名や連絡先などの個人情報は入力しないでください。また、地震の発生確率や被害の予測を書かせないよう、指示に条件として入れてください。
Q. 当日、生成AIに文面を作らせるのは避けたほうがよいですか。
避けてください。通信が不安定な状況でサービスにつながる保証がありません。当日は、用意した文面の空欄を埋めて送るだけの状態にしておきます。
Q. 訓練は12月にやらないといけませんか。
いつでも構いません。静岡県では11月が地震防災強化月間、12月第1日曜日が地域防災の日という枠組みがあり、地域全体で防災の話題が出る時期なので取り組みやすいというだけです。令和8年度の実施方針は2026年9月時点で県の公式ページに掲載が確認できないため、日程は県のページで確認してください。
Q. 何人規模の会社から用意すべきですか。
人数は関係ありません。数名の事業所でも、連絡の順番と誰が判断するかが決まっていないと止まります。むしろ担当者が1人しかいない会社ほど、その人が動けないときに備えて、文面と置き場所を決めておく価値があります。
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参考・出典
- 気象庁「「南海トラフ地震に関連する情報」について」(調査中・巨大地震警戒・巨大地震注意・調査終了の発表条件)
- 気象庁「「南海トラフ地震臨時情報」が発表されたときの防災対応」(キーワード別の防災対応の例)
- 内閣府(防災担当)「南海トラフ地震臨時情報が発表されたら!」(防災対応をとるべきエリア・南海トラフ地震臨時情報 防災対応ガイドライン 概要版令和7年8月改訂)
- 静岡県「令和7年度地震防災強化月間」(11月=地震防災強化月間、12月第1日曜日=地域防災の日/ページ更新2025年10月6日)
- 静岡県「企業防災「巨大地震を生き抜く力」」(Vol.1企業の安全確保/Vol.2地域の安全への貢献/Vol.3企業活動の継続)
- 静岡県「静岡県第4次地震被害想定」・「南海トラフ地震臨時情報」